ペットと一緒に食べて病気の予防になる。
そんな夢をかなえてくれそうな研究を目指す、新しい研究会が発足した。「動物と人の予防医学研究会」である。
理事長であり、帝京平成大学健康医療スポーツ学部医療スポーツ学科動物医療コース教授の中江大先生は「多くの人々の知識、経験、アイデアを結集して、動物と人の健康促進と、良好なQOLの達成につながるイノベーションをはかり、情報発信を行うことを目的に研究会を設立しました」と研究会の設立趣旨について述べている。
このほど第一回学術集会が帝京平成大学で行われた。研究会が目指す動物と人の予防医学とは何か、理事長の中江先生に聞いてみた。
なぜ人と動物の予防医学研究会なのか
中江先生によると、動物と人の良好なQOLと健全な生態系の維持は、直接的・間接的な相互関連性をもつと言う。「特に動物と人の良好なQOLを達成するために、疾病予防が極めて重要であることは言うまでもありません。すでにそのために動物と人のそれぞれの分野で、様々な介入方法が研究・開発されてきました。
しかし、動物と人のインタラクション(相互作用、交流・ふれあい)に着目し、両者のQOLを同時に向上させられるような介入方法の研究・開発は、まだ不十分なのです」と言う。
ペットや家畜など人と共に過ごす動物たちと、その飼い主は、相互に影響を与え合っている。動物のQOL向上は飼い主のQOLを向上させる。また、動物の行動で飼い主が喜ぶことで、動物自身も喜びを感じることは、幸せホルモンであるオキシトシンの研究などでも、明らかになっている。
中江先生はこうした動物と人のインタラクションを通じて、両者のQOLを向上させようと呼びかけ、研究会を立ち上げた。「動物と人とのインタラクションは、予防医学とその関連分野の標的として、新規性の高い領域です。
新しい介入方法の研究・開発とその社会実装は高いニーズがあり、学術的にもまた、経済的にも、たいへん意義があるものです」(中江先生)。
インタラクションをテーマにした研究では、大阪大学教授石黒浩博士の主宰する石黒共生ヒューマンロボット・インタラクションプロジェクトが有名だ。自立型ロボットの実現のために人とロボットのインタラクションを研究している。
動物と人の予防医学研究会は人と動物のインタラクションがテーマで、人だけでなく動物の幸せも実現できる点に大きな違いがある。「私たちは研究会というプラットフォームを提供することで、動物と人のインタラクションを通じて、双方のQOLを向上させたい」と中江先生は考えている。
人と動物が一緒に幸せになる食べ物やゲーム
人と動物のQOLを実現させる具体的な商品として、中江先生は歯磨き剤とゲームを具体例として掲げて解説してくれた。
「口内環境の改善は認知機能低下の予防など、全身に影響を及ぼしています。人の歯磨き剤は食用ではありませんが、犬や猫など伴侶動物の歯磨き剤は、食品として販売されています。
動物が食用ならば、人間用も歯磨き剤の食品があっても良いのではないか。人と動物が一緒に食べられる口内環境改善のための食べ物があれば良いと、私は思っています。例えば歯磨き後に食べるプロバイオティクスなどで、口内環境改善は可能です。
飼主さんならば誰もが体験されていると思いますが、動物の歯磨きはとても難しく、成犬・猫になってから始めるのは至難の技です。新しい方法が求められています。
食べて口内環境の改善に効果がある食品があれば、人も動物も一緒に口腔衛生が実現できるでしょう。双方ともに幸せになれる商品です」と言う。
さらに伴侶動物と人の認知機能向上のためのゲームの開発にも期待を寄せている。
現在、伴侶動物の知育玩具は、食べ物を探し出すフォージングトイがほとんど。これを向上させて、人の子供の知育や、高齢者の認知機能維持・向上が同時にできるような玩具が実現できればと、中江先生は考えている。
「人と動物が一緒にやって楽しめる、ゲーム性があるものを開発できれば良いですね。家族みんなで楽しみながらQOLを向上させる商品開発は可能だと思います。おもちゃ業界とのコラボもできたら良いでしょう」と、人と動物の双方が同時に幸せになる新商品に、期待している。