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迫りくる少子高齢非婚化社会で誰が自分の存在を証明してくれるのか?

2024.07.15

TOKYO2040 Side B 第33回『少子高齢非婚化社会で誰が自分の存在を証明してくれるのか』

迫りくる少子高齢非婚化社会

 東京都の出生率が1を割り、0.99になったということで、具体的に少子化、人口減が数値としても語られるようになってきました。少子化に歯止めをかけるには婚姻数を増やさなければならないのですが、独身のまま生涯を終える人も増えつつあるということで、一朝一夕には解決しない問題であるというのが、概ねコンセンサスとなっています。

 婚姻は憲法24条を挙げるまでもなく自由なものですから、国や自治体からの強制はできません。ですが、個人の力だけで結ばれるものというわけでもなく、世間では、お見合いや婚活パーティーやマッチングアプリなど、人と人とをつなぐ機能は、時代に応じて姿を変えてきました。

 もう少しこの観点で考えてみると、恋愛でさえ、婚姻に至るまでのパッケージの一形態として社会にうまく利用されてきたのかもしれません。ドライな言い方ですが、婚姻が増えるのであればそこに至る道は何でも良いわけですからね。

 その考えを進めると、婚姻減と少子化が言われる昨今は、婚姻への道筋が無くなってしまった、これまでの機能では効果が薄くなってしまった、と言うことができると思います。大げさに言えば、お見合いで押しつけられるものでもないと自由恋愛の時代があり、さらに恋愛において燃えるような情熱があったところで結婚とは関係ないや、という時代になってしまったということです。

 では現代では、どうやって人と人が結びつけば最適なのでしょうか。昭和のお見合いのように「世話焼きをしてくれる親戚の人」みたいな存在は、人間関係が希薄になった都市部では望めません。むしろ誰かを紹介するという行為そのものが現代社会にとってリスクの高いもの、ある種の無責任さを問われるものかもしれないのです。

 そうなると「仲介者の目利き」に変わるものが求められます。お見合い以上に精緻な釣書(つりがき)を用意して、目利きのプロフェッショナルでなくても本人が判断しやすいようにしておく、というところに行き着きます。現代でのそれはマッチングアプリで用いられるデータと言えます。そこでこんなニュースが出ていました。

【関連記事】
マイナカードで“独身証明”可能に マッチングアプリでの詐欺など防ぐ狙い(テレ朝news)

 詐欺を防ぐというのが狙いとされていますが、婚姻を増やすという観点に立てば、マッチングアプリの使用において確実に証明しなければならないのは独身かどうかですし、マイナンバーカードは盲点でしたが、使い道としては良さそうです。

 独身証明書自体は、これまでも市区町村で取得可能でしたが、マイナンバーカードを用いたデジタル証明は、簡便かつ迅速に実施できるため、利用者にとっても非常に利便性が高いと言えます。

人間よりもデジタルのほうが有利なシーン

 そして、次のようなニュースもありました。

【関連記事】
携帯契約の本人確認、マイナンバーカードの読み取り義務化へ 「非対面の契約」ではマイナカードに一本化(TBS NEWS DIG)

 この読み取り義務化の背景には、携帯電話を契約するときに、本人確認の信頼性を高めることで、偽造マイナンバーカードによって受付窓口のショップ店員が騙されることを防ぎ、他人名義のスマホを手に入れるという詐欺・詐称リスクを大幅に軽減するのが目的です。

 こういった詐欺などのニュースを目にすると、私達はどうしても個人情報保護という言葉から、自身の名前、住所、生年月日、性別といった「基本4情報」などのデジタルデータが流出して悪用されたのではないかということを思い描いてしまいますが、「店員が目視で確認したために騙される」という事象にはデジタルであることもマイナンバーカードも関係ありません。

 従来、身分証として広く使われてきた免許証は、店員さんも見慣れていますし、持ったときの感覚、厚み、表面のツヤなど、案外人間は異常に気づくことができたりします。店舗でのオペレーションも番号を控えるなど長年のノウハウが蓄積されています。けれど、マイナンバーカードは無闇に番号を控えるわけにもいかないし、券面の色や写真の見え方など、店員さんでも見慣れない。

 この時、人間の目と脳が何をやっているかというと「券面に印刷されている顔が合ってて、その人がカバンから取り出したからOK」という程度のことです。人間は万能なので、ついそういう形で確認してしまっていたということではあるのですが、これでは本人確認には心もとない。

 なのでしっかり機械での読み取りを義務化して、本人しか知らない暗証番号を入力させる必要があります。マイナンバーカードに内蔵されているチップは偽造ができないものですので、その点でも安心でしょう。盗んできたカードの顔写真部分だけ丁寧に削いで別の写真に張り替えるようなコストのかかる作業は、割に合わないと言えます。

スマートフォンにIDが内蔵されると…?

 わずか一年前ではありますが、マイナンバーカードを巡るトラブルが多くの地方自治体で発生し、ニュースなどもそれ一色になるという時期がありました。

【関連記事】
本来の認証機能は問題なし!マイナンバーカードトラブルで国民が抱いた不安の正体(@DIME)

 新しい技術によって生活に変革が起こることへの拒否反応は、何度かぶり返し、iPhoneにマイナンバーカード機能が搭載されるという報道があった時にも、SNSを中心に、まだ発生してもいないデメリットを挙げて不安がるムーブメントがありました。

【関連記事】
マイナンバーカード機能のiPhoneへの搭載について(デジタル庁)

 スマートフォンにマイナンバーカード機能が搭載されることにより、デジタル庁の示すメリットも当然ながら大きいですが、「肌身離さず持ち歩いている」「万が一無くした際に見つけたり機能停止や再発行を利用者がすぐにやる」「認証機能を用いたWebサービスが増えて安全性が広がる」などのメリットのほうが身近でわかりやすいかと思います。

 1つ目の「肌身離さず持ち歩いている」ですが、マイナンバーカードを持ち歩いている人は今のところ少ないですが、スマートフォンなら持ち歩いていますので、認証や本人確認が必要な場面ですぐに活用することができます。

 2つ目の「万が一なくした際に見つけたり機能停止や再発行を利用者がすぐにやる」については、スマートフォンが高価なので、無くしっぱなしにする人は少ないでしょう。OS標準の「探す」アプリだけでなく、携帯キャリアのサービスによっても探索が可能です。その上で機能を停止させたり、再発行手続きをすることができます。

 これがカード1枚のままでしたら、なくしたことに気づかなかったり、なくしてもしばらくは「ま、いっか」で過ごしてしまう恐れがあります。そうしているうちに悪用されて詐欺に遭うということが考えられるのです。

 3つ目の「認証機能を用いたWebサービスが増えて安全性が広がる」というのは、すでにデジタル庁のアプリ「デジタル認証」でも実現されていますが、Webサービスと連携して簡単に「私が今このサービスを受けている」タイミングで認証できます。とりわけ行政サービスのDXには欠かせないものとなるでしょう。

これからのIDの姿

 IDを組み込んだスマートフォンというのは、セキュアな機能が増え、様々なサービスが受けやすくなるというだけでなく、人間がどういう時に使うか、その時にどういう心理になっているか、ということまで見越して、適用されていきます。

 連載小説『TOKYO2040』では小道具として、その延長線上にある「PA端末」というものが出てきます。個人情報を超えて、人が置かれている状況や、これまでのログを総合的にAIが判断して、常に最適な動作をするものです。

 さらに最新話の33話では、どれだけセキュアなデジタル社会が構築されたとしても、人の過去、人生の情報が丸ごと書き換えられてしまったら、情報で示されているその人は一体誰なのかという疑問を組み込んであります。

 例えば、少子高齢化が進み、独身の老人となった私が何らかの事故をきっかけに記憶喪失になってしまったとします。身分証の類は一切失われていて、握っていたスマホに保存されていた写真でさえ、自分以外は誰なのかもわからなくなる。そんなとき、国家がスマホを通じて「あなたはどこの誰です」と揺るぎなく証明してくれるというのは大変に心強い。孤独かもしれないが孤立は避けられるのです。

 不便な点があるとしたら、記憶喪失から新しい人生をやり直すというSF小説が書きづらくなることくらいです。

 周囲に人が多かった時代は、誰かが「私のこと」を覚えてくれていたものです。けれどこの先は、そうでなくなる場合が多くなる。

 人は社会的な動物ですから、まずIDの確立によって人から孤立を無くし、冒頭に紹介したような婚姻だけでなく、社会の小さな単位を成立させるために「マッチング」によって新たに助け合えるコミュニティを作る、デジタルがそれを結ぶ手助けをする。こういう世界になっていくと考えられます。

 昨年出させていただきました『日本が世界で勝つための シンID戦略』でも、このあたりの話をしておりますので、ぜひお読みいただければと思います。

文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。

このコラムの内容に関連して新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。

これまでの記事はコチラ

ビジネスの核心を司る「デジタルアイデンティティ」の指南書

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「デジタルアイデンティティ」と言われても、ピンとくる人は少ないのではないでしょうか。『DIME』では、2022年に「メタバース」や「Web3」といったバズワードとなっているトピックを特集してきました。ただ、その特集を製作している過程で、何だかしっくりこない部分があることに気づきました。何か根本的なことを見逃しているのではないかと。  その中で浮かび上がってきたキーワードが「デジタルアイデンティティ」でした。

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