■連載/阿部純子のトレンド探検隊
日常の洗濯ものをアウトソーシングする「洗濯のアライさん」
日常的な洗濯ものを代行するサービス「洗濯のアライさん」が7月からスタートした。住友商事、白洋舍、TBWA HAKUHODOの3社共同事業で、先行ローンチとして、東京都渋谷区、新宿区、世田谷区で段階的に開始し、5年内に首都圏を中心にユーザー数5万人を目指し事業を本格化していく。
「洗濯のアライさん」は、全世界の住友商事グループ社員を対象にした社内起業制度「0→1(ゼロワン)チャレンジ2022」から生まれたビジネスアイデア。2018年~2023年で合計1000件を超えたアイデアが出され、2023年度末時点で15件が事業界に向けて活動している。
本サービス発案者である、住友商事 ライフスタイルグループ CFOオフィス 植田 信氏が、海外駐在勤務をした際に感じた、日本と海外の共働き世帯における家事事情の違いが発案のきっかけとなった。
「日本でも共働き世帯の方が多くいますが、家事がストレスになったり、仕事との両立が難しいと悩んでいる家庭を多く見かけます。海外では家事は外注し、空いた時間を自由に使って、生き生きと暮らす方が多く、家事のアウトソーシングは日常となっていました。この対比が私の中では非常にショックで、これをきっかけに家事の代行サービスを考えるようになりました」(植田氏)
日本国内では、有償・無償(家事含む)労働の時間は、過去20年間で1日当たり1時間以上増加しており、その分、可処分時間が1時間減っている。
共働き世代、高齢者世代の増加で日本の家事代行サービス市場は右肩上がりで成長しているが、海外と比較するとその利用は遅れており、同市場規模が日本では0.1兆円に対してアメリカは3兆円と20倍以上の開きがあり、家事代行利用比率も日本とアメリカでは18倍の差がある。
日本で家事の外注が進まない理由として、「他人を自宅に入れるのに抵抗がある」という抵抗感と、「家事を他人に任せるのは手抜きなのでは」という罪悪感、2つの心理的なハードルが背景にある。
「炊事、掃除、洗濯の3大家事の中で、洗濯は比較的単純労働ではありますが、拘束時間は結構長く、日本人が潜在的に洗濯につぎ込んでいる無償労働の価値は10兆円規模と言われています。
炊事と掃除を外注する場合、家の中に入ってもらわなくてはいけないですが、洗濯であれば他人が家に入ることなく、ドア前で完結する代行サービスが可能で、家事代行のハードルとなっている抵抗感が少ないと思います。洗濯のサービスからスタートし、ゆくゆくは家事代行文化を日本に広げていければと思い、本サービスを着想しました」(植田氏)
昨年の8月から白洋舎と共同で、本サービスの実証実験となるLINEで簡単に発注できる洗濯代行サービス「Life Wash」を運用。全体のリピート率は52%、カップル世代では68%となった。
「時間に余裕が生まれた」「家ナカを見られず家事を外注できるので安心」という声や、「当日返却なのでシーツや布団カバーなど在庫の少ないものも出せて助かる」という反応もあった。
実証実験での反応や要望も踏まえてスタートしたのが「洗濯のアライさん」で、LINEの専用アカウント(ID:@320tcrgr)から発注ができる、スマートフォン完結型の洗濯サービス。
LINEで集荷時間を指定、専用バッグに詰めた洗濯ものを玄関先に置いておき、午前10時までに回収。白洋舍監修の洗濯プログラムで洗濯・乾燥を行い、当日の午後7~10時には洗濯ものを返却する。
「洗濯を畳むのが面倒」といったニーズにも応え、たたんだ状態で返却する。洗濯バッグは35リットル入りで、シーツなど自宅での洗濯が大変な大物も対応可能。洗濯バッグ容量の目安例としては、家族4人分×2日分、点数にすると子ども42点、男性13点、女性7点、寝具3点の計65点が可能だ。代行により、1回あたり45分~1時間程度の洗う作業、干す作業、たたみにかかる時間を削減できる。
「洗濯のアライさん」は、クリーニング老舗の白洋舎がオリジナルの洗濯プログラムを開発。
商業クリーニングとは異なる、「日常品の水洗い」のサービスになる。
クリーニング業として下着類を洗濯するには、厚生労働省が指定した消毒方法での消毒と、指定洗濯もの取扱施設として、保健所の認可が必須。「洗濯のアライさん」では、色柄ものへの影響が少ない消毒剤を選定し、つけ置くことで、生地へのダメージを抑えながら消毒を実施することで要件をクリアした。
洗濯の工程では、一般的な家庭用洗濯機には少ない温度管理を行う。汚れ落ちと生地へのダメージに配慮し温水で洗濯。洗剤にはマイルドな風合いに洗い上げる蛍光増白剤無配合の洗剤を選定している。
仕上げでは、天然植物性精油配合の肌にやさしく、無香料の柔軟剤を使用。柔軟剤と同時に投入する抗菌剤のはたらきで洗濯ものの菌の増殖を抑える。
乾燥の工程では、業務用ガス乾燥機を使用。衣類へのダメージに配慮して低温乾燥を行う。繊維が立ち上がり、タオルもふわふわな仕上がりに。
乾燥の最後にクーリングを実施することでしわ付きを低減。乾燥終了後、すぐに取り出してしわを伸ばしながらたたむためきれいに仕上がる。
「梅雨の時季や、ゲリラ豪雨が発生しやすい時季は、洗濯ものを干したまま外出し、急な天候変化で濡れてしまい洗い直さなくてはいけなかった経験もあるかもしれません。
暑さや湿気のある時季で一番気になるのが、汗や生乾きなどの嫌なにおいです。このにおいは、菌が汗や汚れなどを餌に増殖するのが原因で、菌は水分があると増殖しやすくなりますので、汗などで濡れた衣類、タオルはなるべく早く洗濯するのがベストです。
すぐに洗濯ができず、洗濯カゴに洗い物を入れて放置するとその中で菌が増殖して、嫌なにおいがさらに発生してしまいます。洗濯まで時間が空く場合は、ハンガーに買いかけておくなど洗濯カゴに詰め込まない工夫も必要です。
一度嫌なにおいが発生してしまったものでも、『洗濯のアライさん』であれば、消毒工程や抗菌加工を組み込んだプログラムでお洗濯をいたしますので、清潔に仕上げることができます。また、一度預けてしまえば、洗濯から乾燥、たたみまで完了した状態で戻るので、急な天候変化をも気にすることなく、戻って来た衣類はそのまましまうことができます」(白洋舎 事業戦略室 谷村一美氏)
本サービスは水洗いのため、水洗い不可の衣類は受け付けないが、バッグに水洗い不可の衣類、縮みや色落ちの可能性がある衣類が入っていた場合、検品チェックの際に除外し、洗わずに別袋に入れて返却するとのこと。
また、バッグに詰めた状態で玄関先に置き、玄関先に返却する置き配での扱いが主になるため、女性や子どもの下着を入れるには不安という場合には、洗濯バッグのファスナーに使い捨てのプラスチックロックを装着。返却の際も同様にロックする。
集合住宅からの回収・返却に関しては対面での対応になるが、返却については、一部のECサイトが進めている、集合住宅のオートロックをスマホで解除してドア前まで届ける置き配システムを検討しており、ドア前で完結できるサービスを追求していくという。
料金は3プラン。週1回、曜日と時間を指定する「定期プラン」は1回あたり2980円。予約の手間は不要で、キャンセルしたい場合は、前日の13時までは無償で対応する。必要な時に都度予約できる「スポットプラン」は1回あたり3500円。家庭では洗濯が難しい「羽毛布団プラン」は1回あたり3500円。水洗いではなく、ドライクリーニングを希望する場合はオプションで利用できる。
一般的な洗濯代行サービスは、預かりから返却まで2日~1週間かかってしまうものが多いが、「洗濯のアライさん」は、家庭での洗濯と同様に当日に完結するのが大きな特長。
「物流2024年問題がクローズアップされている中、当日の回収、返却が可能なのか疑問に感じるかもしれませんが、こちらについては、物流会社が空き時間を活用する“物流マッチングプラットフォーム”で効率化させています。
配達方法についても、対面だけではなく、置き配を積極的に組み合わせることでこちらの問題に取り組んでいきたいと考えています。
また、システム管理で受注と洗濯オペレーションの最適化を図ることも行っており、定期プランを設定することで、雨の日など受注が集中するスポット利用の受注を分散させ、安定して当日にお返しすることができるオペレーションを組み立てています」(植田氏)
【AJの読み】将来的には家事全般に拡大させ“家事の総合御用聞きサービス”を目指す
なぜ、住友商事が洗濯代行の事業を?と疑問に思ったが、本サービスを展開するライフスタイルグループは、スーパーマーケットのサミット、ドラッグストアのトモズ、タオル製品のフェイラーなど、B2Cを中心にビジネスを行っており、顧客との接点が多いという背景がある。
「5年以内に首都圏エリアへと規模を拡大、3社ネットワークを活用しつつ、ユーザー数を5万名規模に増やすことを目標としています。将来的には、洗濯代行だけで売上100億円規模実現、洗濯から家事全般にまでサービスを拡張した上で“家事の総合御用聞きサービス”として、様々な選択が可能なライフスタイルを提供することを目指していきます」(植田氏)
定期プランで2980円、スポット利用で3500円という料金は、コインランドリーと比べると割高感があるが、ドア前に出してドア前まで戻してくれる利便性、たたみまで済ませてくれるので洗濯作業そのものを無くしてくれるストレスフリー、旅行から帰ってきた後、梅雨の時季など、洗濯ものが溜まってしまうときの便利さなどを考えると、メリットが高いと感じる人もいるだろう。
とはいえ、洗濯ものは毎日出る。定期プランは週1回なので、1回の量が家族4人分×2日分となると、定期プラン以外の日は都度利用になってしまいやはり割高感がある。定期プランも週に数回などバリエーションがあればさらに使いやすくなると思うのだが。
取材・文/阿部純子