メールに添付して送ればいいだけなのに、一応プリントもして机に置いておく……こんな風に、デジタル化が進んで本当はもうやらなくていいかもしれないのに、未だに一応やっている業務=「イチオー業務」を詠んだ川柳が、おもしろいと話題だ。アドビがSNSを通じて募集したもので、6月15日の「PDFの日」にあわせて、入選作品も発表されている。
PDFは昨年30周年を迎え、発表日の6月15日を記念日登録した
1000件以上の応募の中から最優秀作品に選ばれたのは、40代会社員の「電子書類 印刷手書き 再スキャン」。アドビの「Acrobat Sign」をはじめ、いまや電子サインツールはたくさんあるし、ペンタブもそれなりに普及しているはず。にもかかわらず、未だにメールで送られたきた書類をわざわざ印刷して、手書きで署名し、再スキャンしてメールで送るというアナログ経由のデジタル業務をやっているという人は、きっと少なくないはずだ。
入選した20作品は以下のラインナップ。
決裁は 根回し済で 形骸化
空気読み お辞儀ハンコで ヨイショする
FAXを 送った後の 確認TEL
使うかも 消せずに貯まる 過去データ
紙の書類 スキャンしたのに 取っておく
承認印 電子と紙の 二刀流
役員の 会議資料は フルカラー
「紙無くす」 通知するのに 紙使う
領収書 捨て時わからず また保管
デジタル化 上司の指示は 紙ってる
ハンコ押す ただそれだけに 行く会社
紙でくれ 言われてないが 紙で出す
念のため イチオースクショが メガバイト(MB)
紙無くせ 行動計画 紙出させ
納品書 一応原本 送ります
ペーパレス 推進せよと 書類(かみ)回る
会議室 予約入力 張り紙も
データ便 送りましたと メールする
電話する 前にLINEで お伺い
インボイス データで受け取り まず印刷
「紙の書類 スキャンしたのに 取っておく」「電話する 前にLINEで お伺い」「使うかも 消せずに貯まる 過去データ」などは、「あるある!」とうなずいてしまう人も多いはず。筆者もデスクの横には立派なドキュメントスキャナーが鎮座しているにも関わらず、机の上はいまだに紙の書類だらけだし、意味なく保存されている過去データがPCのハードディスクを圧迫している。わかりみが深すぎて、思わず苦笑いしてしまう。
アドビが実施した「ビジネスにおける帳票郵送業務に関する調査」によれば、見積書や請求書、領収書は未だ紙でやり取りされているものが多く、約7割の人が紙で送りつつデジタルデータでも送るという二重送付をしているという。未だデジタル化したくない人も多いようで、その三大理由は「手書き・紙の処理に慣れているから」「デジタル処理に不慣れだから」「業務が増えてしまう」というもの。一方で、20代では約64%がデジタル化の遅い会社では働きたくないと答えている。ペーパーレス化だDXだといっても、世の中、そんなに簡単には変わらないのが現実だが、アナログなイチオー業務がはびこる会社は、若くて優秀な人材が確保できないかも……というわけだ。
約7割の人が紙で送りつつデジタルデータでも送るという二重送付を経験
デジタル化の遅い会社では働きたくないと答えた若者は、20代では64%にのぼる
アドビでは「みんなでSTOP一応やってる仕事」と題し、
1.請求書や領収書の原本の二重郵送
2.会議資料のプリントアウト
3.印刷して捺印してまたスキャン
4.押印と電子署名の二重手続き
5.メール添付ファイルのパスワード後送
の5つのイチオー業務をSTOPしようと提言。アドビ マーケティング本部デジタルメディア ビジネスマーケティング執行役員の竹嶋拓也氏は、「企業で働いているひとりひとりの心がけ、考え方ひとつで、変えられる」と呼びかけていた。
2024年10月1日からは、消費税率の引き上げを除くと30年ぶりとなる、郵便料金の値上げも実施される。アドビが1で掲げた二重郵送が、作業面だけでなく、コスト面でも負担になる日も近い。イチオー業務、そろそろ見直しどきかもしれない。
取材・文/太田百合子