少し「インタラクティブ」な要素の入る「ポルシェ博物館」
ではシュトゥットガルトにあるもう一つの自動車博物館である「ポルシェ博物館」のほうはどうだろう。
こちらはシュトゥットガルト中央駅から電車で4駅(10分)。Neuwirtshaus (Porscheplatz)駅で降りたその駅前に位置する。
入場ゲート前に大きく広がる庇に圧倒される。
入場料は音声ガイドが無料で付いて大人12ユーロ(約2080円。2024年7月現在)。ただしメルセデス・ベンツ博物館の入場券を提示すると25パーセント割引になる(逆も同様)。開館は9時から18時で月曜日は休館なのも、紙のパンフレットがドイツ語か英語だけなのもメルセデス・ベンツ博物館同様だ。
こちらは海外メディアツアーの一員としてではなく個人で訪れたのでオーディオガイド借りた。
日本語もある。音声だけでなく文字でも表示される。
こちらも展示している車はポルシェ一辺倒。一つだけメルセデス・ベンツの車が置かれていて驚いたのだが「ポルシェが委託生産した車」との説明だった。
ポルシェの初期の車。このころからどこかしら「ポルシェっぽい」と感じる。
ただこちらはメルセデス・ベンツ博物館とは違い、「体験」もあるインタラクティブな展示だ。
VR体験コーナー。
レーシングゲームコーナー。
「ポルシェに乗って記念撮影コーナー」は一番人気だった。
こんな画像をプリントアウトしてくれるが……普通にスマホで撮ってもらったほうがうれしいかもしれない。
その他、「謎解きゲームコーナー」のようなものもある。
とはいえ「メガウェブ」のそれほどユニークな体験とは言えないだろう。印象としては「ポルシェ博物館」もまた「メルセデス・ベンツ博物館」と同様に「展示を主とする王道の博物館」。「インタラクティブな体験を楽しめるテーマパーク型博物館」の「メガウェブ」とは一線を画している。
また「展示物」に関してもドイツ陣営は「自社製品のみ」を貫き通している。「自動車業界全体の発展の歴史」を伝える「メガウェブ」とは明らかに方向性が異なる。
優劣を論じているのではない。ドイツの両博物館には「高級車」「量産型高級スポーツカラー」というそれぞれの「分野」の世界的リーダーとしての「自信」が見て取れる。一方「メガウェブ」は世界の自動車業界をけん引するトップカンパニーとしての「懐の深さ」を感じる。その違いはつまりは「業界での立ち位置の違い」からくるものかもしれない。
その一方でふとこんなことも考えた。たとえばトヨタが「トヨタ車だけを展示したトヨタ博物館」をつくっとして、世界中からどれほどの入場者を集められるだろうかと。メルセデス・ベンツ博物館やポルシェ博物館のように活況を呈するのだろうか。
メルセデス・ベンツ博物館で展示されているスポーツカー。
そのあたりはトヨタ博物館も自覚しているようで公式サイトにも「トヨタ博物館は、世界の自動車とクルマ文化の歴史をご紹介する博物館です。(中略)「クルマ館」では19世紀末のガソリン自動車誕生から現代までの自動車の歴史を日米欧の代表的な車両約140台で一望いただけます」と記されている。
これはなにもトヨタ自動車に限らず、日本の自動車メーカーすべてに言えることかもしれない。例外なのは輝かしい歴史を誇るF1グランプリカーを展示できるホンダくらいか。
「数を売ることではなく、憧れになること」。そんな言葉がふと頭に浮かんだ。
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ドイツ観光局
http://www.germany.travel/
文/柳沢有紀夫
世界約115ヵ国350名の会員を擁する現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える』(朝日新書)などのお堅い本から、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)などのお笑いまで著書多数。オーストラリア在住