「聖地巡礼」は何もアニメファン(そしてもちろん宗教信者)のためだけのものではない。車好きな一度は訪れたい「聖地」がドイツのシュツットガルトかもしれない。なぜなら人口60万人強のドイツ第7の地方都市でありながら、「高級車の代名詞」であるメルセデス・ベンツと「量産型スポーツカーの代名詞」であるポルシェ、その両社が本社を構えているからだ。
そしてお膝元であるだけにここには「メルセデス・ベンツ博物館」と「ポルシェ博物館」がある。「クルマ好きの聖地」ともいえるこの2つの博物館を訪れてみた。
メルセデス・ベンツ博物館に行ってみた
まずはメルセデス・ベンツ博物館。シュトゥットガルト中央駅から電車で2駅(7分)。Neckarpark駅で降りて歩くこと12分でその巨大な建造物に到着する。
第一印象は「要塞」。
入場料は大人16ユーロ(約2770円。2024年7月現在)。開館は9時から18時で月曜日は休館。
3基あるエレベーターの手前にある読み取り機にチケットをかざすことで入場。
見学の「順路」は最上階からとなる。
ツアー(展示)の内容は2つに分かれる。前半は「会社の歴史(カンパニーヒストリー)」で、後半は「所有物(コレクション)」。前半が「会社の歴史」であることからエレベーターの形状もタイムマシンを意識しているという。
さて今回は海外メディアを集めたツアーの一員としてここを訪れたので、ガイドから英語での説明を受けた。ただし音声ガイドも利用でき、日本語もある。一方チケット売り場で訊いたところでは紙のパンフレットはドイツ語と英語しかないとのこと。また公式サイトから7ヵ国語のパンフレットをダウンロードできるが、すべてヨーロッパ系の言語だ。
そのエレベーターを降りて最初に置かれているのが馬の模型。「自動車の発明前の最も有効な移動手段であることから」とはガイドの説明だ。
「自動車の歴史をつくってきた」という自負
実際の展示は「世界最初のガソリン自動車」と言えるゴッドリープ・ダイムラーの四輪自動車とカール・ベンツの三輪自動車(いずれも1886年製造)からスタート。「最初の自動車」ではなく「世界最初のガソリン自動車」と書いた理由はのちほどお伝えする。
ゴッドリープ・ダイムラーが製作した四輪自動車。
カール・ベンツの最初の三輪自動車。
さらに彼らがつくった初期の車たちが展示される。たとえば1890年のパリ万博に出展した車。Victoriaという名の最初の量販車。
「名車」の数々が並ぶ。
1902年製のMercedes-Simplex 40PX。
説明パネルには時速80キロメートルと書かれているけれども、ガイドさんによると「実際には時速120キロメートルまで出せた」とのこと。ラジエターでエンジン温度を下げたのが画期的な発明だったらしい。
スポーツカーにときおり見られるガルウィング(ドアが上に跳ねあがって開くタイプ)を最初に採用したのは1954年から販売されたこのメルセデス・ベンツ300SL。
ガルウィングは格好の良さから作られたのではなく、車の横に通すフレームを増やし、ボディー剛性を高めるための「苦肉の策」だったとのこと。
ちなみにこの車は小さな家くらいの値段がした。だがガルウィングを採用したためサイドウィンドウを開くことができない構造となる。もちろんエアコンなど装備されていない時代。というわけで夏場に運転していると暑いので、「Fastest Sauna」(最速のサウナ)などと揶揄されたという。
その他、「今では常識となっているエアバッグを最初に量販車にオプションとしてつけたのは1980年発売開始の2代目Sクラス」など輝かしい歴史が説明される。
そして展示の後半は「所有物(コレクション)」だ。
懐かしいF1カーなども見ることができる。