Deloitte Insightsが発表した新たなレポート「アジアパシフィックにおける生成AI:若手ビジネスパーソンが牽引する一方で、経営層は遅れを取り戻す必要がある」では、「AI世代」といわれるテクノロジーに精通した若手ビジネスパーソンが生成AIの導入を推進していく役割を果たす一方で、経営層は生成AIによる変化に適応していく中で新たな課題と機会に直面していることが示された。
「AI世代」こそが生成AIの活用を通して持続可能な仕事量につなげている
本レポートはアジアパシフィックの約1万1900人を対象とした調査をもとにしており、急激に進化するこのテクノロジーに企業も政府も適応していく必要性を浮き彫りにしている。
「AI世代」こそが生成AIの活用を通して勤務時間を短縮、さらに新たなスキル開発の機会を手にして、持続可能な仕事量につなげていることが明らかになっている(※)。
※ 2024年2月から3月に、Deloitte Access Economicsが13か国・地域の大学生2903人とビジネスパーソン9042人を調査した。調査対象の国・地域は、オーストラリア、中国、インド、日本、シンガポール、台湾、韓国、ニュージーランド、東南アジア(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)。
本稿では、同社発行リリースを元に、その概要をお伝えする。
■本レポートの主な調査結果
<AI世代が牽引役>
アジアパシフィック全体で学生やビジネスパーソンが生成AI革命を牽引しているが、自身の生成AIの使用を管理職が把握していると考えるのはその半数に過ぎない。
<多大な影響>
アジアパシフィック全体で、毎週生成AIによって勤務時間の16%(110億時間超)が多大な影響を受けると予想される
<テクノロジーの既存ヒエラルキー>
アジアパシフィックでは新興国のデジタルネイティブが生成AIの導入を牽引し、利用率も先進国を30%上回っていることから、テクノロジーの既存ヒエラルキーにディスラプションが起こる可能性がある
<人材へのメリット>
生成AIのユーザーは1週間でほぼ1日分の労働時間(6.3時間)を削減しており、新たなスキルを習得する時間を手にしている
<時間の節約>
生成AIの利用によって時間を節約できた人の41%がワークライフバランスを改善できたと考えており、生成AIによって仕事量の持続可能性や仕事の生産性が高まる可能性がある
<リスクの管理>
自社が生成AIの導入に遅れを取っていると考える従業員は4分の3近くに上る
AI&Data ケイパビリティ リーダーのクリス・レウィン氏は、本レポートに関して次のように述べている。
「生成AIに関する取り組みは、世界中のあらゆる物事やあらゆる場所で一斉に起きています。これが最もワクワクするポイントです。
インドネシアやインドのクライアントが直面していた課題が、イタリアやアイルランドのチームの課題とほとんど同じであった、ということを私たちはこの12カ月間で目にしてきました。
1つ明確になったことがあります。AIの急速な導入が仕事を奪うことにはならず、逆に、AIに順応できなかった企業こそがAIの影響を受けることになる、ということです。
こういった企業の従業員は、AIアプリを利用して時代にあった未来の働き方に変革していけるライバル企業に魅力を感じるようになります。特に社会人になって間もない人材にその傾向が強くなるでしょう」
■「導火線が短く、衝撃が大きい」シナリオ
アジアパシフィックにおける生成AIの影響をさらに詳しく説明するために、Deloitte Access Economicsは18の業界について、生成AIのインパクト(「衝撃」)と、それぞれの業界が影響を受けるまでの期間(「導火線」の長さ)という観点からマッピングを行なった。
その結果、さまざまな業界の中で5兆米ドル相当の経済活動が「導火線が短く、衝撃が大きい」シナリオに該当すると試算されている。
インパクトが大きいのは金融、情報通信技術(ICT)とメディア、プロフェッショナルサービス、教育の4つの業界で、アジアパシフィック全体で平均するとこの4業界で経済の5分の1を占めている。
プロフェッショナルサービス、金融、ICTといったインパクトの大きい業界に向けて経済活動がシフトしていく国もあることから、この割合は今後増加していくと考えられる。
また、生成AIを利用している学生の40%がこの4つの業界のいずれかでキャリアをスタートさせたいと考えているため、トランスフォーメーションも加速することになるだろう。
■企業による生成AI導入に向けた3つの重要なアクション
生成AIの拡大を受けて、急速に変化する環境に対応するために企業経営者も従業員も戦略的に考え、積極的に動く必要がある。本レポートの調査結果の分析に基づくと、大きなインパクトのある次のアクションが企業には求められている。
(1)従業員による生成AIの習得につながる生成AI戦略を策定し、実行する
(2)従業員自らがAIの学びを進められるよう後押しする
(3)生成AIを取り込むために、必要に応じてデータインフラを反復的に開発する
デロイト アジアパシフィックのコンサルティング ビジネスリーダーのロブ・ヒラード氏は次のように述べています。
「CEOを始めとする企業幹部に求められているのは、新たなテクノロジーを採用して既存のプロセスやタスクの効率性向上を図るだけではなく、そのテクノロジーを使ってプロセスやビジネスモデルを全面的に見直していくことです。生成AIを活用できるように業務を改革することで従業員や顧客の満足度が高まり、収益性も改善するでしょう」
構成/清水眞希