厳しい指導から「ほめる指導」にかじを切る自動車教習所が増えている。
北海道帯広市の帯広第一自動車学校は、昨年10月から『ほめちぎる教習所』に方針転換したところ、アンケートでは99%の教習生が「褒めてもらったことでやる気が上がった」と回答。生徒はもちろん、インストラクターの意識も変わり、校内の雰囲気さえも大きく変化したという。
近年、少子化などにより免許取得者が減少。経営悪化する教習所も少なくない。
内閣府の令和5年交通安全白書によると、令和4年末の運転免許保有者数は、前年と比べて約6万人(0.1%)減少し、約8,184万人となった。
また、令和4年中の運転免許試験の受験者数は前年に比べて9万115人(3.3%)減少し、合格者は前年に比べて2万8,591人(1.4%)減少している。
参考:https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r05kou_haku/zenbun/genkyo/h1/h1b1s2_3.html
そんな中、今注目されている「ほめる教習」。果たしていかなる効果があり、どれほど重要なものなのか?
今回、帯広第一自動車学校の指導について、株式会社第一自動車学校広報課の渡部翔さんに話を聞いた。
――もともと帯広第一自動車学校は厳しい指導をされていたとお聞きしました。真逆とも言える「ほめて伸ばす」教習に変えたきっかけを教えてください
「弊社が運営する第一自動車学校は「安全安心な運転者を育成し、地域の交通社会に安全面から貢献すること」を指導方針に地域でも人気の自動車学校でした」
「特に今から数十年前、在籍数がピークだった頃は「第一で取ればしっかり教えてくれるから上手くなる!」という評判の下、多くの方にご入校いただき、卒業後も安全運転を続けていただいた結果、「全国優良教習所表彰」や「初心運転者無事故表彰」など多数表彰していただきました。しかしその反面、インストラクターの厳しい指導や態度も少なくなかったと聞いています」
「そのせいか、近年になると「第一は厳しい」というイメージが先行してしまい、厳格に交通マナーや技術を教えていた職人気質のインストラクターは避けられる存在に。クレームを恐れて本当に伝えたいことも伝えきれずに教習を終えるという事態が増加していたんです」
「さらには「厳しく指導すると退校してしまう」というネガティブな発想が次第に強くなり、インストラクターのモチベーションも低下。負のスパイラルに陥っていたように感じます」
過去には普通車の入校者数が約3000人ほどだったものの、昨年は828人まで減少。もちろん、取得者層の減少、車への興味関心の変化なども考えられるが、指導法もその一因だと渡部さんは語る。
「指導レベルを下げることなく、交通安全への思いを現代の免許取得層に伝えたい、そんな議論を重ねていたとき、三重県の「ほめちぎる教習所」南部自動車学校様をご紹介いただいたんです。その取り組みに強い興味を持った当校職員が現地に赴き、「ほめる教習」を見学させていただきました」
「そこで行われていたのは「感動を越えた感涙」の世界。自動車学校を卒業する際に涙するというのです。入校から卒業まで他では見られないプログラムがずらりと並び、運転にそれほど興味がなかった若者さえも感極まる内容だったそうです。感銘を受けた当校職員は「これしかない!」と思い、会社として「ほめる教習」を取り入れていく道のりがスタートしました」
こうして始まった、北海道初の「ほめちぎる教習所」。それまでの指導と大きく変わったこととは?
「それまでは、インストラクターにとっては卒業させるのが当たり前、またお客様は卒業できて当たり前という意識が強く、ある意味パターン化された教習でした。しかし、この「当たり前」という発想が本校の閉塞感を生み出している原因だと、南部自動車学校様から強く学び、お客様との向き合い方を根底から考え直すことにしたんです」
「また、卒業させることを前提に教習するのではなく、一時限毎にお客様と真剣に向き合い、良いところを見つけられる「ほめる達人」になること。そして、過去の出来ていない部分を指摘する教習から、出来ている部分を見抜いて努力を認め、やる気を引き出す達人になること。この2点がインストラクター達の中で大きく変わったポイントです」
この意識改革が、帯広第一自動車学校に光を与えた。
「現時点で大きく変化を感じる点は、教習生の受講姿勢の変化、卒業アンケートのコメントの変化です」
「教習生は出来ていないところを指摘されるのではなく、出来ているところを認めてもらえるようになった結果、自身の成長を実感しながら進んでいけるようになったので、運転に対してとても前向きに取り組んでいる方が増加したと感じます」
教習生たちには自主性が芽生え、車や運転にほぼ無関心だった者も運転本来の楽しさを実感する。帯広第一自動車学校ではこれを「成長実感」と定義している。