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次は日本で勝負!元サッカー日本代表・岩政大樹がハノイFCで取り戻した自信

2024.07.12

1つのワードから選手たちが自己発生的にサッカーを発展させていく姿に手ごたえ

「鹿島でもよく使っていた(トル)『ローテーション』というワードを例に取ると、どういう動きを指すのかをまず選手たちに理解してもらい、そこから2つ3つ4つとプレーが広がるように仕向けました。選手個々には個性や特徴がありますから、僕の意図するポイントが分かれば、彼らは自己発生的にパターンを作り出していく。そういう形を採ったんです」

 それが鹿島時代との大きな違いだったのかもしれない。鹿島の選手たちは能力が高い分、「沢山のことを指示しても吸収し、実践してくれる」と考えてのことだったが、それが混乱につながった部分も否定できない。岩政が異なるアプローチを模索するのも当然の流れだったと言っていい。

鹿島とは微妙に異なるアプローチが奏功したという(本人提供)

「成績が悪ければクビにできる」という契約条項も。逆風もある中、5月には月間最優秀監督に

 しかしながら、最初から全てが順調だったわけではない。ベトナムでは代表監督として実績を残した韓国人のパク・ハンソ氏の功績が高く評価されていたこともあり、日本人指揮官に厳しい目線が向けられていたというのだ。2021年1月にサイゴンFC指揮官となった霜田正浩氏(現松本山雅監督)もわずか3試合で更迭された例もある。

「契約書をよく読んでみたら、成績が悪ければクラブが監督をクビにできるような条項があってビックリしましたね(苦笑)。僕自身、戦々恐々としながらチーム強化をスタートさせました。

 それでも、情報を絞り込んだアプローチが奏功したのか、後半戦スタート前の練習試合から選手たちに躍動感が見られて、『これはイケるのではないか』という手ごたえを感じて、すごく楽しみになりました。

 それを確信に変えるためには、やっぱり公式戦の結果が必要。2月半ばからリーグが再開し、最初は勝ったり負けたりでしたが、徐々にチームの連動性や流動性が高まり、選手たちがグングン成長していきました」

 新指揮官・岩政が確固たる自信を得たのは5~6月の5連勝だった。彼がチームを引き受けた前半戦終了時点では8位だったが、最終的には3位まで順位を上げて、23-23シーズンをフィッシュするところまで至ったのだ。

 もう1つのベトナム・カップも勝負強さを見せ、7月7日のファイナルに進出。相手のタインホアは8位のチームということで、ハノイにはタイトル獲得の絶好のチャンスが巡ってきた状況だった。

 1万1000人という大観衆の中、相手の本拠地で行われた一戦はハノイが主導権を握り、決定機も数多く作ったが、0-0のままPK戦に突入。5人では決着がつかず、最終的に主将が失敗し、8-9で敗れてしまった。

 岩政にとってはプロ監督になってから初めてのタイトルがあと一歩で取れず、悔しい思いをしたはずだが、選手たちの奮闘に心からの感謝の念を抱いたという。

リーグ3位・カップ準優勝で取り戻した監督としての自信。次は日本で勝負!

「ベトナムで指揮を執って、リーグ3位・カップ戦準優勝という結果を残せた。わずか半年間でここまでの成果を残せるとは思っていなかったし、自分も監督としての自信を取り戻せた気がします。

 鹿島時代はクラブOBだったこともあって、選手たちもフロントも『大樹さんなら分かってくれる』という感覚あって、自分の負担がそれなりに多かったと思います。でもベトナムにいる自分は1人の外国人監督でしかない。もちろんオーナーやGMとは意思疎通は図りますけど、基本的には自分のやりたいことにだけ集中していればいい。それがすごく楽でやりやすかったのは確かです。

 その中で学んだのは、やはり勝てるチームはクラブのトップ・強化部と現場が同じ方向を見て、一体になって動くことの重要性です。最初は僕に対して『どこまでやれるのか』という疑問もあったかもしれませんが、仕事を始めて、公式戦が始まってからは僕のやり方を尊重してくれた。そういう関係性があったから、ハノイでは一定の結果を収められたと感じています」

 岩政が言うように、日本国内だろうと海外だろうと、一枚岩の組織・体制を作ることが何よりも重要なのは確か。いい仕事をしたいと願うなら、自分からアクションを起こし、そう仕向けていく必要がある。伝えるべきメッセージを簡潔に分かりやすくして、多くの関係者や選手の協力を得やすくするというのは1つの効果的なアプローチ方法と言えるのかもしれない。

「監督にはオリジナリティが必要」と彼は改めて強調する(本人提供)

「別分野で活躍している人に沢山会って、アイディアを学びたい」いう意欲も

 彼は貴重な経験を積んだうえでハノイを離れることを決断。日本に戻って次の仕事を探すという。

「ベトナムでこの前まで代表監督だったフィリップ・トルシエさん(2002年日韓W杯日本代表監督)と食事する機会があったんですけど、トルシエさんは『フラット3』という独自の守備組織を追求し、ここまでやって来ました。ベトナムでは結果が出なかったかもしれないけど、オリジナルの発想と実践する方法を持たれていました。

 日本を見渡しても、今の横浜F・マリノスのベースを作ったアンジェ・ポステコグルー監督(現トッテナム)、ミシャさん(ペトロヴィッチ・札幌監督)も自分がこだわったサッカーを突き詰めている。僕も10年先を見据えて、何かにこだわりを持ったスタイルを追い求めていきたいという思いはあります。

 そういう僕を求めてくれて、一緒に仕事したいと考えてくれるフロントや強化部のいるところで次はやりたいですね。ハノイでは僕独自の新しいサッカーを見つけることができたので。新天地が決まるまでは、別の分野や業界で活躍されている人などに会って、アイディアを学びたい。僕は40そこそこなので、まだまだ勉強が必要なんですよ」

 爽やかな笑みを浮かべた岩政。彼の監督業はまだ始まったばかり。ハノイでの経験を踏まえつつ、次なる一歩をどう踏み出すか。多くのビジネスパーソンがその姿や姿勢から学べることは少なくないはずだ。(本文中一部敬称略)

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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