超高齢社会を迎えた日本は、高齢化率29.1%(2022年)と世界で最も高く、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」が迫っている。
社会保障費増大の懸念などから健康的な高齢化の促進が求められると同時に、単身の高齢者や高齢者のみの世帯が増加する見通しから、高齢者が安心して健康に暮らせる住環境の整備も求められている。
では、どのような住環境が高齢者にとって良い状態、well-beingにつながるのだろうか。
積水ハウスは、千葉大学予防医学センター社会予防医学部門(近藤克則研究室)と共同で実施した、日本初となる、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)入居者と地域高齢者のwell-beingに関する調査結果を発表した。
積水ハウス、日本初となる「サービス付き高齢者向け住宅」入居者と地域高齢者のwell-beingの比較調査結果を発表
積水ハウス不動産東京と千葉大学予防医学センター社会予防医学部門(近藤克則研究室)は、「シニア向け住宅における高齢者のWell-beingに寄与する要因の探索」に共同で取り組んでいる。
研究にあたっては、2023年2~3月に実施した、全国9都道府県にある積水ハウス不動産東京が手がけるアクティブシニア向けサ高住「グランドマスト」全39施設の入居者への調査データと、2022年度の日本老年学的評価研究(JAGES)の地域高齢者の調査データを利用。
要支援・要介護認定者ではない65歳以上の回答者を分析対象とし、Well-beingの指標として「幸福感・生活満足度」「身体的・精神的健康」「人生の価値・目的」「経済・物的な安定性」「密接な社会関係」を比較*した。
その結果、well-being指標のうち「幸福感・生活満足度」および「経済・物的な安定性」のドメインにおける全ての項目と、「身体的な健康状態」において、地域高齢者よりもグランドマスト入居者のスコアが高い傾向がみられた。
*比較にあたっては、年齢や日常生活自立度などの様々な背景要因を考慮して各高齢者がサ高住に入居する確率「傾向スコア」を算出し、サ高住入居者と地域高齢者の間で傾向スコアが近似する高齢者をマッチングして比較する「傾向スコアマッチング」という手法を用いた。
外出・交流頻度や共食頻度の高さのwell-beingへの寄与を示唆
well-being指標につながる関連指標について、グランドマストの入居者においては「幸福感・生活満足度」の関連指標である「笑う頻度」がほぼ毎日と回答した人や、「身体的・精神的健康」の関連指標である「外出頻度」が週5回以上、「人生の価値・目的」の関連指標である「体験教室・通いの場」が月1回以上、「密接な社会関係」の関連指標である「友人と会う頻度」が週4回以上、「食事を一緒にする機会」が週1回以上と回答した人の割合が、地域高齢者より高いことがわかった。
グランドマストでは入居者の外出や交流を促進するため、コンシェルジュデスクによる周辺地域や地域交流に関する情報案内、オリジナルの近所マップの配布などを行っている。
これらの取り組みが入居者の「外出頻度」「体験教室・通いの場」「友人と会う頻度」などを増加させ、結果としてwell-being指標を高めていることが予想される。
また、希望者に提供している食堂での食事サービスも、「笑う頻度」「食事を一緒にする機会」を増加させ、入居者のwell-beingの向上につながっているようだ。
本調査結果は、日本社会関係学会第4回研究大会(日本大学経済学部7号館、2024年3月20日)において「サービス付き高齢者向け住宅入居者のwell-being:傾向スコアマッチング法でのJAGESデータとの比較」として報告され、最優秀研究報告賞を受賞した。
■積水ハウス不動産東京株式会社 グランドマスト事業部長 宮本俊介氏のコメント
今回の研究を通して、サ高住入居者における外出・交流機会や共食機会の充実がwell-beingにつながる可能性が浮かび上がってきました。
これらの因果関係のさらなる追究のため、今後も研究を重ね、グランドマスト以外へのサ高住へも研究対象を広げていくことで、well-beingを高めるサ高住の要因を探っていきたいと考えています。
サ高住は、入居者が安心して暮らせるバリアフリー環境や安否確認・生活相談サービス等を整えた、高齢者向けの住まいです。「元気なうちに早めに安心な住宅に住み替え、健康寿命を延ばしていただく」という目的のもと、2011年から設置が推進されてきましたが、実際には提供されているサ高住の多くが、主に介護が必要な方を対象とした介護型です。
しかし今後の人生100年時代においては、住まい手自身の幸せの側面、社会保障費をはじめとした社会的な側面の2つの視点から、健康寿命を伸ばすことが重要です。
積水ハウスグループでは、ただ住む場所を提供するのではなく、住まいを通じてwell-beingの向上を提供していくことを使命と考え、今後も研究を重ねて「高齢者が暮らしているだけで健康・幸福になるシニア向け住宅」を追求してまいります。
関連情報
https://www.sekisuihouse.co.jp/
構成/Ara