日銀が行なう代表的な金融政策の一つに公開市場操作がある。これには市場から債券(国債)を購入、通貨流通量を増やすことで金利引き下げ効果をもたらす「買いオペ」と、市場で債券を売却して逆の効果を狙う「売りオペ」の2種類がある。
今回は2024年7月9日と10日に日銀が債券市場参加者会合を開催したということで、三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川 雅浩氏から関連リポートが届いているので、その概要を紹介する。
日銀は今月末に国債買い入れの減額計画を公表する予定だが、現時点でその詳細はまだ不明
日銀は7月9日と10日に債券市場参加者会合を開催し、国債買い入れの運営に関し市場参加者の意見を聴取した上で、7月30日、31日の金融政策決定会合において国債買い入れの具体的な減額計画を発表する予定だ。
日銀の植田和男総裁は前回6月会合後の記者会見で、買い入れの減額は、「予見可能な形」で「相応の規模」を「(計画決定後)すみやかに行なう」と述べていた。
ただ、減額計画について、現時点では期間が「今後1~2年程度」とされているだけで、減額の幅やペース、枠組みなどの手掛かりはまだ示されていない。
そのため、国債買い入れの減額が開始された後、日銀が保有する国債の残高が、どの程度減少していくのかを正確に予想することは困難だ。そこで、以下、買い入れ減額の枠組みを仮定し、国債残高の減少ペースを試算してみたい。
■日銀は6月末時点で588.5兆円の国債を保有、毎月6兆円程度の国債の買い入れを継続中
まず、日銀が保有する国債の残高を確認すると、2024年6月末時点で588.5兆円と、日本の2023年度の名目GDP(597.3兆円)に近い規模に達している。
次に、国債の月間買い入れ額をみると、年明け以降、月6兆円程度の買い入れが続いている状況だ。
以上を踏まえ、国債の月間買い入れ額の変化を複数パターン用意して、それぞれについて、国債残高の変化をみていく。
国債残高は2024年6月末時点の588.5兆円を基準とし、2024年7月は6兆円の買い入れ実施を仮定する。2024年8月から2026年7月までの2年間、月6兆円の買い入れ額について、
(1)月6兆円を維持
(2)2兆円分を毎月均等に減らし、2年後に月4兆円とする
(3)4兆円分を毎月均等に減らし、2年後に月2兆円とする
(4)6兆円全額を毎月均等に減らし、2年後に買い入れゼロとする
という4つのパターンを想定する。
■2年後に月4兆円なら残高は5%減、月2兆円なら9%減、市場に配慮した計画なら混乱回避へ
結果は図表1のとおりで、2024年8月から2026年7月までの2年間で、日銀の国債保有残高は、
(1)はほとんど変わらず
(2)は28.5兆円(4.8%)減
(3)は53.4兆円(8.9%)減
(4)は78.3兆円(13.1%)減 となる。
参考までに、2024年8月から月6兆円の買い入れを完全に停止した場合は図表2のとおりで、2026年7月までの2年間で、日銀の国債保有残高は、141.6兆円(24.2%)減少することになる。
日銀が必ずしもこの枠組みを採用するとは限らないが、将来の国債償還額がわかっているため、買い入れの減額は「予見可能な形」で「すみやかに行なう」ことができる。
「相応の規模」は、市場参加者の意見を踏まえ、日銀が判断することになるが、植田総裁は先月、「国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保」すると述べており、日銀の減額計画発表で、市場が動揺する恐れは小さいとみている。
構成/清水眞希