■連載/阿部純子のトレンド探検隊
横押しキャリーバッグは身体への負担が少ないのか商店街で実証実験
持ち運びが楽で、荷物が多い時にも便利な横押しキャリーバッグ。買い物やビジネスシーンなど幅広く活用されているが、他のバッグと比べてどのくらい身体への負担を減らしているのか、科学的に定量・定性の側面から明らかにするため検証が行われた。
横押しキャリーバッグ市場シェアトップの「スワニー」が今年5月に実施した実証実験が『新小岩ルミエール商店街×スワニー お買い物楽楽(らくらく)チャレンジ』(以下、楽楽チャレンジ)。
JR新小岩駅の南口に位置するルミエール商店街は全長約420メートル。1959年に設置されたアーケードは葛飾区内初で、約140店舗の専門店が軒を連ねる東京・下町の商店街だ。
楽楽チャレンジにおいて、ヘルスケア分野に知見を持つ、村田製作所 医療・ヘルスケア機器製品部マーケティング課 疲労ストレス計MF100担当 家邉徹氏(下記画像左)と、上原接骨院・鍼灸院 院長 上原秀一郎氏(同右)の専門家2名の監修のもと、買い物バッグがもたらす身体への疲労度に関する実証実験を行った。
楽楽チャレンジにはルミエール商店街を訪れた44~83歳の男女31名が参加。スワニーのキャリーバッグとトートバッグ2種類を無料で貸し出して、1時間ほど買い物をしながら歩いてもらった。
貸し出したバッグは、「スワニーバッグ」(サイズ:高さ55(42)×横29(29)×奥行21(17) cm、( )内の数字はバッグ単体の寸法、容量:約19L ※数種類用意していたため、サイズ、容量に多少の差があり)と、「トートバッグ」(サイズ:タテ35×ヨコ52×マチ17 cm、容量:約28L)の2種類。
スワニーバッグを使用した19名、トートバッグを使用した12名の計31名を対象とし、被験者1人ごとに、買い物前と買い物後の2回、村田製作所の疲労ストレス計「MF100」を利用して、自律神経活動量(疲れ具合)、自律神経状態(疲れ具合と対ストレス反応)を示すバイタルデータを算出した。
村田製作所疲労ストレス計「MF100」とは、スマートフォン・タブレットのアプリで「疲労・ストレス測定」が可能な、小型の簡易健康管理デバイス。バイタルデータによる自律神経数値化とビッグデータの分析により、自律神経のバランスと偏差値を示し、客観的な評価が難しかった「疲労・ストレス度」を可視化する。
検証1:歩行前後の「疲れ具合」の変化
バッグを利用した歩行前後の自律神経活動量の変化(疲れ具合の変化)を、「元気に」「維持」「少し疲れた」「疲れた」の4つに分け、スワニーバッグとトートバッグでそれぞれ分布割合をまとめ、比較を行った。
スワニーバッグでは「疲れた人」はおらず、「少し疲れた人」が16.7%。トートバッグでは「疲れた人」が27.2%、「少し疲れた人」は18.2%と、大きな差が生まれていることがわかった。スワニーバッグでは「元気に」と「維持」の合計が83.3%で、歩行による自律神経機能向上が見られる結果となった。
検証2:歩行前後の「疲れ具合と対ストレス反応」の変化
バッグを利用した歩行前後の自律神経状態の変化(疲れ具合と対ストレス反応の変化)に関して、歩行前後で16マトリックスエリアのどこからどこに移動したか、星取表を用いてABCの3段階で評価。スワニーバッグ使用者とトートバッグ使用者でそれぞれ、変化の割合を出し比較した。
スワニーバッグではA評価である「改善or良い状態を維持」が57%と、ポジティブな変化が半数以上に対し、トートバッグはわずか17%と差が開いていることを確認。トートバッグではネガティブな変化であるB評価「少し改善or若干悪化」とC評価「疲労orストレス」は合計83%と、多くの人で買い物により疲れたり、ストレスを受けている様子が見受けられた。
実証実験を監修した村田製作所の家邉徹氏はこう話す。
「全長420mに渡って魅力的な様々なお店が続く新小岩ルミエール商店街を、いろいろなものを見たり、買い物をして重い荷物を持ったりして歩けば通常は脳が使われて疲労が蓄積されるのが自然です。
トートバッグでは歩行による疲れやストレスが多く出ているのに対し、スワニーバッグではそれがあまり出ていないように見受けられました。スワニーバッグでは、疲れるどころかむしろ元気になるような、良い自律神経状態が維持されたり、改善されるような動きをしており、歩行を阻害しないためにポジティブな効果が出たのではないかと推測します。
通常、適度な散歩は疲労やストレスの解消に有用ですが、スワニーバッグを使うことで買い物による荷物の増加などの影響を受けず、散歩のポジティブな面だけが出ている可能性があると見受けられました」(家邉氏)
楽楽チャレンジでは、スワニーバッグを使用して買い物後、普段のバッグと比較した疲労度(「体全体」「肩、腕」「腰」「足」)に関して「非常に疲れを感じた/ 疲れを感じた/ 疲れを少し感じた/ 全く疲れを感じなかった」の4段階で評価してもらうアンケートを実施。
スワニーバッグを利用した人の70.8%が「全く疲れを感じない」、25%が「疲れをあまり感じない」と回答。計95.8%の人が、普段使用しているバッグより全体の疲労度を感じないことがわかった。
体の部位ごとの疲労度では、特に「肩・腕」の疲労を感じにくいという回答を得た。
監修者の一人、上原接骨院・鍼灸院 院長 上原秀一郎氏は「カバンの選び方は健康寿命に影響を及ぼす」と話す。
「年代問わず、買い物の際に、購入した物が入った重量のある袋を片手で持ったまま移動すれば、腕・肩・腰に強い負担が発生します。
特にシニア世代であれば、偏側的な強い筋肉の負担が原因で、関節や脊椎(頚椎・胸椎・腰椎)、骨盤に強く影響を与えてしまう可能性が考えられます。
実際、当院に来院されたシニア世代の患者さんで、肩掛けカバンや旅行用の牽引タイプのカバンで毎日買い物されて、日に日に背骨が曲がってしまった事例がありました。長期的に偏側的な腕・肩・腰への負担が続き、深刻な状態を引き起こすことは珍しくありません。
実はシニア世代以外でも、同様の問題が発生します。若い世代だと筋肉が衰えていない分、短期的には荷物が及ぼす負担を感じにくいのですが、継続して同じ手や腕でバッグを持つことで、筋肉への負担が発生し、骨・関節にまで負担が及び、最終的に骨格の歪みにつながります。結果、体の不調につながり、長期的には健康寿命への影響も考えられます。
そのため、生活の中で高頻度で使用するバッグの選び方は、デザインだけでなく身体的負担を軽減できるかどうかも重要だと考えます」(上原氏)