パートナーは名コーチ
楢﨑さんは2021年に、同じプロクライマーで東京五輪の野口啓代さんと結婚している。
二人は男女の各エースとして、日本のスポーツクライミング界を長年盛り立ててきた存在だ。
交際時には互いにアスリートとして意見を交換することもあったという。
「クライミングに関しては僕の方が強かったので、僕が教えることの方が多かった。
逆にメンタル面やトレーニングの日程調整、コンディションのコントロールなんかは啓代の方が上手かったので相談することはありました」(楢﨑さん)
メンタル面は啓代さんの方が強いのか問うと「全然強いですね」と即答。「本当に、僕の中身が啓代だったら何十回と優勝してます」と語る
野口啓代選手は東京五輪を最後に現役を引退、その後楢﨑選手との結婚を発表している。かつての戦友がパートナーであることについては「正直プレッシャーもある」と苦笑いした。
「内定を決めた世界選手権も観に来ていて、ハンパじゃないプレッシャーを感じていました(笑)でもこれだけ真剣に応援してくれていると応えたいという気持ちになります」(楢﨑さん)
普段の練習では啓代さんにトレーニングメニューを組んでもらうこともある。「『絶対できないじゃん』と思うようなメニューを組まれても、やってみたら意外とこなせる。僕よりも僕のことを分かっているかもしれません」(楢﨑さん)
名コーチである啓代さんについて「厳しいです(笑)。優勝してもほぼ褒められません」と笑顔で語る
「褒めると手を緩めると思われているかもしれない」と楢﨑さんは言う
日本から世界へ――広げたいクライミングの輪
楢﨑選手の活動は競技だけに留まらない。Unparallel社でクライミングシューズ「TN-Pro」などの開発に携わるほか、オリジナルチョーク「WISE CHALK」の開発協力、ボルダリングジム「フライハイト」(茨城県土浦市)の監修も手がけている。
こうした事業を始めたきっかけは「より登りたいという気持ち」だった。
「靴は流行りの課題に対応できるものを作ってほしくて、一緒に考えさせてもらいました。チョークの場合はより良いフリクションを求めていたのと、僕が栃木出身なので栃木の人と組んで何かをやりたかったというのもあります」(楢﨑さん)
今後の展望について楢﨑さんは「パリが落ち着いたら、普及事業を進めたいですね。啓代と一緒に組みながら、日本だけじゃなくて世界でも色々やっていきたいなと思っています」と思いを語る
かつて東京五輪をきっかけにスポーツクライミングは一大ブームが巻き起こった。
この夏、楢﨑智亜選手の熱いプレーが再びクライミングブームを引き起こすことを期待したい。
楢﨑智亜選手の腹筋チラ見せショット!
取材・文/キタノ 撮影/黒石あみ