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コミックをアートに変えたアーティスト「ロイ・リキテンスタイン」が描いたもの

2024.07.10

レオ・カステリとの出会い

1961年になると、当時新進気鋭の現代アートのギャラリストとして台頭していたレオ・カステリの目に、リキテンスタインのアート作品が目に留まり、即決で新人アーティストとして売り出すことが決まります。翌62年になるとレオ・カステリギャラリーで個展をおこない大盛況となります。しかし、それとは反対に、当時写真ジャーナリズムの先頭を走っていた「ライフ」誌は「アメリカのアート史上において最も酷いアーティストである」と、両面見開きでページを割いて長い批評文を掲載したのです。

まさに賛否両論に意見が分かれる展開となっていったのです。けれども、当のリキテンスタインはどちらの意見を聞いても全く動じず、淡々としながら新たな作品を制作していたそうです。批評されるということは「批評するだけの価値がある」ということであり、また雑誌に掲載されたことで知名度もさらに上昇していったのです。

レオ・カステリギャラリー・・・ギャラリストのレオ・カステリが、1957年に自宅のアパートメントでオープンさせたギャラリー。ジャスパー・ジョーンズなどの企画展からスタートして、海外のギャラリーとも積極的協力して若手芸術家を紹介していき。そのあり方は従来の閉鎖的なギャラリーのシステムに一石を投じた。

ウォーホル作品との違い

リキテンスタインのコミックを題材にするというアイディアは、実は当時ポップアートの頂上にいたアンディ・ウォーホルも思い浮かべていたものの、どこが違うかというと、それは余白の使い方でした。リキテンスタインの作品が全て点描で描かれたドット模様であるのに対して、ウォーホル作品には筆のタッチがあり余白は白のままなのです。

どちらも大衆的なものを題材としているものの、リキテンスタインの絵画はドットであるからこそ、ただコミックを拡大しただけの簡単な作品のように意図的に見せる、それを絵画という表現に落とし込むアイデアは誰も思い浮かばなかったのです。

完成から数週間後にレオ・キャステリのところに立ち寄ったウォーホルは、それを見てとても悔しがったそうです。なぜならウォーホル表現の中心には「繰り返し」があります。

有名人をモチーフにして反復させることで大衆化させることに成功しており、それとは逆に大衆的なモノを反復させた絵画にすることで、絵画の二次元性について強く意識させているのです。そして、リキテンスタイン作品における余白へのドット模様は、全ての対象をコミックという表現を用いて大衆化させ、その1枚の作品自体が繰り返しの点描という手法で描かれているのです。

それは誰が見ても印刷物を拡大したかのように見えるリキテンスタインの個性であり、その独自の文脈がアートの歴史に残る理由です。これこそウォーホル作品との明確な違いといえるでしょう。

傑作<モナ・リザ>と<泣く女>の凄み

リキテンスタインの作品の特徴としてパロディ化も外せない特徴です。例えばレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「モナ・リザ」をリキテンスタインはパロディ化させています。

神秘的で謎めいて読み解きたくなる従来のモナリザの姿は消え去り、微笑む代わりに吹き出しをつけて、こんなユーモアなセリフが入っているのです。

「THEN I`LL JUST SIT HERE AND SMILE ! そのときちょうど私はここに座って笑顔になります」

このセリフがあるからこそ、作品が大衆的なものとして成功しているのです。

それとは別の作品の傑作が「泣く女」です。リキテンスタイン作品の代表作といっていいこの傑作は、泣いている女が拡大された絵画作品です。これは元となったコミックの1コマだったものを拡大させることによって、コミックのストーリーから独立した作用をもたらし、ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」のような謎めいた雰囲気を醸し出しているのです。

この2つの作品は対極にありながらもリキテンスタイン作品の傑作中の傑作といえるのです。

リキテンスタインはなにを描いたのか

作品のコミック化だけでなく、そもそも作品の主体において大事にしていたものがいくつかあります。例えばよく出てくる登場人物としてヒーローやミッキーマウス、典型的な金髪美女、戦争の体験から戦闘シーンもよく出てきます。

ときに血なまぐさいものを具象で描くことはしなかった代わりに、セリフや擬音語を使って強烈な描写が描かれているのです。そして、その作品たちがコミックという手法で描かれることで、鑑賞者は自然と作品そのものを直接受けとらされるアート作品に昇華させているのです。

どこまでもポップでコミカルでありながら、描かれているものはノンフィクション作品なのです。そういう強烈なメッセージが根底にあるのがリキテンスタインの作品であり、評価され続けている普遍的な要因なのです。

おわりに

リキテンスタインはニューヨークで育ちました。それが全てではなくとも、作品が生まれた背景には育った文化や環境を切り離すことはできません。アートの文脈で言えば1950年代から現代アートの中心地はパリからニューヨークへと完全に移行しました。

世界経済を引っ張り続けるアメリカという豊かな土壌で、60年代にアメリカンポップアートが生まれた背景には必然性があり、資本主義と大量生産というものが影響されているはずです。だからこそ大衆的なものを主題とした新たなアートが生まれたのです。

まわりを見渡せば同時代を生きたウォーホルもいて、同じポップアートの世界にいながらも、作品を通じて刺激し合う関係でした。ウォーホルとは私生活から何もかもが真逆で、リキテンスタインはどんなときも静かで紳士的であったそうです。

アートが誰にとってもひらかれた表現である大きな要因として、この時代に活躍したアーティストたちの活動や作品が影響しているのです。もちろんリキテンスタインもポップアートの世界を前進させた歴史的なアーティストです。

アート作品はその作者のことを知ることで、作品鑑賞の際により深みを持って作品と対峙することできます。その作品がコミックではなく、紛れもないアートであることを理解すると、リキテンスタインの作品の見方がガラリと変わるはずです。

これを読んで少しでもリキテンスタインについて興味を持っていただけたら嬉しく思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

文/スズキリンタロウ

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