まさに映画の1シーンのような私生活の一場面を画像や映像でSNSに投稿して〝リア充〟ぶりをアピールしているセレブやインフルエンサーがいる一方、私生活の痕跡をなるべく消して過ごしている慎ましやかな人々もいる。
そうした地味目で素朴な人々の中にも一定数の〝リア充〟はいるはずだが、興味深いことに我々の多くはそうした素朴で目立たない〝リア充〟に敏感に気づける特殊な能力が備わっているという――。
見知らぬ他者の幸福度は驚くほど正確に推測できる
「人は見た目が9割」という言い分もあれば、その一方で「人は見かけによらぬもの」ということわざもある。いったいどっちなのかと〝言い出しっぺ〟を糾弾したくもなるが、その人物の幸福度を見極めることにおいて、我々はそのような指標に頼らずとも自分の目を信用して良いようだ。
最近の研究では、初対面の人物であっても我々は短いやりとりだけでその人物の人生の満足度やポジティブな感情を驚くほど正確に推察できることが明らかになっている。その人物が〝リア充〟であるのかどうかについて、我々の〝鑑識眼〟は実はかなり優秀であり、ひっそりと日々を送っている〝リア充〟にも敏感に気づくことができるというのだ。
人生の満足度(Well-being)についての研究はこれまで当人の主観的な評価に基づいて行なわれることが多く、カウンセリングやマネジメントなどの職業では個人の健康状態の把握が重要であるにもかかわらず、見知らぬ他者の幸福をどの程度正確に評価できるかについてはこれまでほとんど研究されてこなかった。
韓国・キョンヒ大学、米・ユタ大学とシカゴ大学の合同研究チームが2023年9月に「Social Psychological and Personality Science」で発表した研究では、見知らぬ他者の幸福をどの程度正確に評価できるのかを探った興味深い実験が行なわれている。
募集に応じた200人のアメリカ人大学生は自分の生活の満足度および肯定的な感情に関する報告を行なうとともに、カメラに向かって自己紹介をし、それぞれの短いビデオ映像が撮影された。
彼らのことをまったく知らない実験参加者は、この自己紹介ビデオを視聴してその人物の幸福度を評価したのだが、学生の生活満足度および肯定的な感情に関する自己報告と、視聴者(実験参加者)による評価が一致する著しい傾向が見られたのである。つまり見知らぬ人物でも、ほんの短い接触によってその人物の人生の満足度やポジティブな感情をかなり正確に推測できているのだ。
このように他者のポジティブな感情を敏感に察することができる一方で、その人物がネガティブな感情を抱いていた場合は、その感情は特に敏感には察知されてはいなかった。〝リア充〟は気づきやすいのだが、〝非リア〟はあまり判別できないことになる。
ではその人物の幸福度を推測するうえで、何か決め手となっている手がかりはあるのだろうか。
視聴者個々人の評価には複雑な要素が絡み合っていると思われるのだが、研究チームによれば自己紹介をする人物の大きめの声と身体的な魅力が重要な指標になっていることを指摘している。意外なことにその人物の笑顔はそれほどの影響力がないことも示されたという。つまり我々はそれほど〝笑顔にダマされて〟はいないことになる。
しかし評価のメカニズムについてはまだ限定的な理解に留まるために因果関係は確立されていないのだが、人的交流における第一印象についての興味深い一面が明るみになったことは間違いない。
初対面の人物が〝リア充〟であるかどうかについて、我々は驚くほど正確な評価を下していることが今回の研究で示されることになったのだが、個人に限らずたとえば旅で訪れた先の地元の人々が幸せそうであることに気づけば、また再び訪れたくもなってくるだろう。いわゆる〝リピーター〟はそのような感情を抱いていそうでもある。
とはいえ留意したいのは、他者の幸せに敏感に気づけるということは、ややもすれば羨望や嫉妬にも繋がりやすいことである。幸せな人々を見て必要以上に想像を膨らませたり詮索したりするのはナンセンスであり、自分のメンタルに負荷をかけることにもなると自覚すべきだろう。