日本人だからこそ面白い中国語学習
林先生の解説を知ると、中国語に対する興味が湧いてくる。新刊書では、他にも日本人だからできる中国語学習のポイントについて紹介している。特に漢字に含まれているニュアンスは、日本人に理解しやすい点としてアドバンテージが高いと言う。
中国語は漢字で構成されているので、日本人には馴染みやすい。しかし、日本人が日常生活で使う初級レベルの漢字は中国語の漢字とは全く異なることが多い。その一方で、社会や技術、芸術などに関連した中級レベルの漢字になると日本語と同じ漢字を使うことが多くなる。
幕末から明治時代にかけてたくさんの西洋文化が中国と日本に入り込み、新しい概念を表す漢字が日本語でたくさん作られた。例えば哲学、封建、選挙などは和製漢語として日本で作られた。
日本では漢字を作成する時に中国の古典から作成したので、中国人にもなじみやすい漢字として受け入れられた。新しい和製漢字が中国に渡って大量に取り入れられた結果、日本語と中国語は同じ漢字を使うようになったのである。
一方、初級レベルの漢字は中国から日本に渡って来て、日本に定着したものが使われている。つまり、古代中国から古代日本へ渡って来た漢字が、そのまま日本に残ったのである。
中国では時代の変遷や様々な言語の影響を受けて、古代漢字の多くが変化した結果、日本語の漢字と中国語の漢字は異なるものになった。だから初級レベルの日本語の漢字と中国語の漢字が異なる場合があると、林先生は教えてくれた。
日本人には漢字の落とし穴もある
林先生は「日本人だったら日本語脳で中国語を学びましょう」と提案しているが、逆に日本人だからこその「落とし穴」もあるとも言う。特に漢字に対しては2つの陥りやすい罠があると指摘している。一つ目はすべての漢字に意味があると考えがちであること。そして、日本人は同じような意味をもつ漢字の使い分けにこだわり過ぎてしまうと注意を促している。
日本語でも「みる」は見る、観る、視る、診るなど様々な漢字があるが、中国語でも「持つ」という意味の漢字は「等」「待」「候」などがある。これらはつい使い分け方を知りたくなるが、林先生によると漢字一文字の意味にこだわりすぎるよりも、単語レベルで理解した方が上達は早いとアドバイスしている。
他にも日本人が発音しにくい中国語の声調をわかりやすく解説してくれた、「一度読んだら絶対に忘れない中国語の教科書」。中国語に関する興味深いエピソードも盛り込まれていて、読んでいるだけで話せる気がしてくるから不思議である。さらに中国語の知識ゼロの人が、「中国語ってこうなってるんだな」と、全体像を感覚的に理解することができる、最高の教科書だった。
林 松涛(りん しょうとう)先生
中国語教室・翻訳工房「語林」代表。また立教大学、拓殖大学でも教鞭をとる。復旦大学で物理、同大学院で哲学を学び、1995年に来日。東京大学大学院で思想史を研究、博士課程単位取得満期退学。著書に『つながる中国語文法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『マップ式 中国語単語記憶術』(講談社)、『つたわる中国語文法』(東方書店)、『大人なら使いたい中国語表現』(三修社)などがある。新刊書は「一度読んだら絶対に忘れない中国語の教科書」(SBクリエイティブ刊、定価1870円)。
文/柿川鮎子