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スマートホームは物流問題やカーボンニュートラルへの突破口?住宅のあり方から社会課題を考える

2024.08.02

「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする」をミッションに、2020年に住宅関連メーカーやIT企業などの企業が業界横断で集まり、業界の垣根を超えてユーザーのより良い暮らしを実現すべく設立された一般社団法人LIVING TECH協会。『LIVING TECHカンファレンス』は、協会設立前の2017年から開催されているイベントでユーザー視点、社会課題の解決、スタートアップの視点を盛り込み、1つのテーマを異業種のパネリストが多角的に議論するスタイルが人気となっている。

第6回となる今回は、「業界横断の共創でつくる、環境にも人にもやさしい、well-beingな暮らし」をテーマに、日比谷三井タワーからリアルとオンラインのハイブリッドで開催された。ここでは「カーボンニュートラル時代に求められる企業のESG経営と、住まい手のwell-beingを両立させるには?これからの住宅業界のニュースタンダードはこれだ!」についてリポートする。

パネリスト&モデレーター (右から順に)

<パネリスト>塩出晴海さん
Nature 創業者/ CEO

<パネリスト>滝沢潔さん
不動産テック協会 代表理事:ライナフ 代表取締役

<モデレーター>小室英雄さん
EYストラテジー・アンド・コンサルティング Corporate Intelligence Advisory/CIA Leader

<パネリスト>橘嘉宏さん
三菱地所 HOMETACTプロジェクトリーダー

<パネリスト>百田好徳さん
リノベーション協議会 理事/エコラ 代表取締役

住宅業界全体に関する課題と省エネ対応

このセッションは、金融や不動産領域のコンサルティングに携わり、イスラエルなどの最先端のテクノロジーに触れてきたEYストラテジー・アンド・コンサルティングの小室氏がモデレーターを務め、企業姿勢としてのIoT導入におけるESG経営視点、住まい手から見た顧客体験におけるテクノロジーの活用や、これからの住宅業界におけるニュースタンダードについて議論していく旨が紹介された。

まずはリノベーション協議会の理事を務めるエコラ百田氏が語る。

「リノベーション業界のみならず、住宅業界全体でIoTやテクノロジーの普及が遅れていることは事実です。理由としては建築不動産のアナログな環境の中、利便性や価値をどう見いだせるかがポイントになるかと考えています。

住宅業界においては、新築住宅は、来年から省エネ等級を満たしていなければ着工もできず、住宅ローン減税設けられなくなるという国の施策が決まっています。また、省エネ性能表示制度がスタートしました。中古リノベーションにおいては、リノベーション協議会で「R1住宅」という基準をつくって運用していますが、新たにLED電球や人感センサーなど、省エネ設備の導入で表示登録が可能な「R1エコ基準」を2024年6月から新たに運用します」(百田さん)

「断熱工事による省エネだけでなく、日々の電力をスマートコントロールで最適化できるようにIoTを導入することで省エネ性能を向上させることができれば、消費者の生活コストが削減ができるメリットがある住宅を提供できるので、私たちの業界でも取り組むべきではないかと考えています」(百田さん)

「税制考慮の改正など、日本だと新築住宅などプライマリー寄りの施策が中心で、海外だと中古リノベーション住宅の回転が早く、IoTの力で省エネやCO₂削減できる賃貸不動産などの流通も活性化したらよいですね」(小室さん)

住宅から物流のESG課題を解決する「ライナフ」

ESG経営があらゆる産業で欠かせない今、住宅業界では建築資材、職人代、輸送費の高騰、ユーザーの生活でも食材や電気代の高騰など、様々な課題にあふれている。

それと相反し、ユーザーのニーズはコスパ(時短)からタイパ(時短+質)に変化する中、住宅業界において、企業とユーザーの関係が、ESGとWell-beingの両立という大きな課題を乗り越えることが求められている。テクノロジーの活用でカーボンニュートラルに取り組む事例や、スマートホームを切り口にタイパな暮らしをサポートする事例が紹介された。

パネリストの一人、不動産テック協会代表理事でライナフ代表取締役の滝沢さんは不動産業界にありながら独自の視点ESGに向けた事業を展開している。

「ライナフは不動産の価値向上に取り組んでいる会社です。不動産の価値は駅からの距離や新築時の設備などで決まることが一般的ですけど、サービスの力で不動産の価値を高められないかと考えています。

主に取り組んでいるのが、マンションのオートロックに取り付けるスマートロックです。現在、1万棟のマンション、世帯数で言うと40万世帯に設置をしており毎月500棟ずつ増えています」(滝沢さん)

ライナフがこれほどまでのスピードでサービスを展開できているのには理由がある。

「『置き配』という物流業者が抱える再配達問題がなくなるようにスマートロックを設置しています。不動産会社やオーナーさんにとっては設置コストからランニングコストまで無料でご利用いただき、代わりに物流会社さんから費用をいただいているというビジネスモデルです。

ライナフのお客様にはヤマト運輸など物流会社もあれば、明治、生協などオートロックの中に入って契約住戸の前に置き配をしないといけない企業も増えており、こういったサービスも受けられるという側面からも物件の価値を高めています」(滝沢さん)

このビジネスの裏には物流業界が抱えている「2024年問題」が背景にある。

「2024年問題」とは、2024年4月から働き方改革関連法によってトラックドライバーの時間外労働が960時間を上限に制限されることによって物流業者の労働時間が短縮、それに伴い輸送能力が不足し、これまで通りモノが届かなくなるかもしれないという問題だ。

「まずは不動産ではなく、物流目線でのESGについて話していこうと思います。

『2024年問題』が騒がれていますが、今後、労働人口はどんどん減少していきます。2030年には今より30%運べなくなると言われていますし、2050年には50%運べなくなる。もう『運べなくなる』は確定している。

物流で働く人を増やすためには給料も上げないといけないし、そうなるとあらゆる点で物流のコストは上がっていくでしょう。それは世の中のあらゆるインフラに関わってくる話です。そのため物流のコストを下げることは持続可能な社会を作るためには必要なことです。その手段の一つとして不動産に協力をしてもらえるのが『置き配をOKにする』ということなんです。

実際に私が営業活動をしていると、ESGに理解されている担当者もいれば『物流問題のことは関係ない』と言う不動産会社もあります。不動産業界にも物流問題を考えてほしいですね」(滝沢さん)

ボーダーレスで複数メーカーの設備やデバイスをコネクテッドさせるHOMETACT

「一言で表現すると、メーカーの垣根をなくしたプラットフォームを開発し、HOMETACTというスマートホームサービスを構築しています。日本の住設機器・家電は、世界と比べると明らかに横連携できていない状況です。エネルギーマネジメントだけでなく、生活上のUXや住まう人のwell-beingを実現させるためには、コネクテッドな状態を目指すべきと考えています。企業やユーザーにとって有用なサービスやデバイスはボーダーレスにつないでいくのがHOMERACTの思想です」(橘さん)

「我々も自社で全てを賄えるわけではないので、国内に限らず世界のトップメーカーの商材とクラウドAPI連携するのと同時に、LIXILとの協業によりECHONET Lite 経由でも日本メーカーの住設機器やスマート分電盤などを制御するなど、ハイブリッドな接続方式によって便利なスマートホームだけでなく、エネルギーマネジメントもできるように進化してきました。導入する企業だけではなく、入居者にも日々の生活の中で消費電力を直観的に意識できるようなUI「Energy Window」という機能をリリースしました。これは、数字やグラフを並べて見せるだけでなく、電気の使い方の良いときは森に生き物がたくさんいて良い自然、良くないときは動物や緑が減るといったように、「窓からの風景」が変化することによる日々のちょっとした違和感や変化を通じて省エネを意識できるようにしています。
スマートホームとセットでHEMSを提供することで、消費者との接点も強固になり、実効性のあるHEMSになっていると思います 」(橘さん)

カーボンニュートラル視点からスマートホームを推進する「Nature」

「エネルギーの課題を解決する」という理念を掲げて事業を展開しているNature株式会社からはカーボンニュートラル社会の現状と課題について共有がされた。

「今、世界は2050年のカーボンニュートラルの達成を目指しています。2030年には温室効果ガスの排出を半減する必要があります。

温室効果ガスはすでに電気で3割、今後、電気化されるモビリティまで含めると5割近くが電気によって排出される。なので、電気をいかに脱炭素化できるかがカーボンニュートラルの最優先事項です。その流れの中で東京都の太陽光パネルの設置義務化などがある。川崎市にも同じ取り組みがあり、今後、全国的にも広がっていくでしょう」(塩出さん)

「さらに、2050年までにカーボンニュートラルを達成するには電源構成を再生可能エネルギーにシフトしていく必要があります。具体的には、日本でも発電の50%以上を再生可能エネルギーでまかなう予定です」(塩出さん)

しかし、変革に向けて少なからず課題が伴うことになる。塩出さんによればミクロとマクロな課題がそれぞれあるという。

「ミクロなレベルだと、まず『高い自家発電率の実現』があります。日本では50%くらいが戸建てです。仮に戸建てがすべて太陽光パネルを導入した世界になるとどうなるのか。電気の需要は朝と夜に多い。一方で、太陽光の発電は日中。つまり、日中に電気は余ってしまうことになる。電力会社は余っているタイミングで売られても困るけど、買取義務があるから断れないのです。

そうならないためには自分で作った電気は一旦、蓄電池やEV等に貯めて、タイミングをずらして使う必要があります。自家消費比率を高めていくことがポイントになります。

カーボンニュートラルは世界中の動きです。再生可能エネルギーの比率を高めるために頼れるのは太陽光か風力です。どちらも変動性が高いので『調整力』が求められる。すでに、自家消費比率を高めることはコンシューマーにとってもメリットのある話になっています。

作った電気を売るより、電気を買った値段の方が高い。つまり自分の家で作った電気は自分で使うのが一番経済効率性が高いというわけです。

また、2050年のカーボンニュートラルに向けて、世界中が太陽光と風力という変動電源を大量導入しようとしている。そうなると調整力としてバッテリーやデマンドレスポンスを劇的に増やさないと電力の需給バランスを調整しきれない。

私たちNatureは、ミクロな自家消費比率の課題は「Nature Remo E」というHEMSコントローラー(ホームエネルギーマネジメントシステム)を提供して自動化を促しています。そしてマクロな調整力の課題に関しては、コンシューマー向けにIoT製品を販売して家庭のリソースを集めて調整力として電力会社にサービスを提供しているのです」(塩出さん)

マクロな視点でスマートホームを見る必要がある

スマートホームは、日本においてはどうしてもメーカーが頑張るもの、ユーザーのDIYによる利便性や節約性に焦点が当てられがちだ。

しかしながら、住宅・建築業界もIoTの導入によるESG経営の視点を持つことができれば、社会課題の解決や、カーボンニュートラル課題と向き合うことができるだけでなく、住まい手のwell-beingを叶えることもできる側面もある。

設備や家電メーカーだけでなく、住宅業界全体で、より大局的な視点に移すことで、スマートホームの理解が深まり、市場拡大や向かう先の未来もはっきりと見通すことができるだろう。

これを機に社会の一員としてのスマートホームの意味や意義を考えてみたい。

***

【LIVING TECHカンファレンス#6 特設サイト】
https://livingtech.ltajapan.com/ltc006/

取材・文/峯亮佑

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