マクラーレンはF1マシンの他に、公道を走行できるスポーツカー、ロード・ゴーイングカーを1985年に一度、市販している。しかし、その直後から活動を休止。2011年からマクラーレンオートモーティブを設立し、市販のスポーツカーを本格的に開発、販売を開始した。
当初は、クーペモデルだけだったが、2012年に「MP4-12Cスパイダー」を発表。マクラーレンの市販スポーツカーは、斜め上に開くディヘドラルドアを採用している。ルーフが開くスパイダーも同じ形式のドアを用いている。
最新モデルの「750S」は、2023年春の発表時からスパイダーモデルを揃えていた。新しい「750S」はマクラーレンの中でも最も軽量で、パワフルな生産モデルとして開発された。クーペはカーボンファイバー製のモノコック構造を中核に軽量化を図り、先代の「720S」より重量を30kg削減し、乾燥重量は1277kgと3Lスポーツカーとして、最軽量車のトップクラスを実現した。
旧「720Sスパイダー」より30kgの軽量化を実現
スパイダーは、カーボンファイバー製アッパーストラクチャーとコンポジット製リトラクタブルハードトップを採用、クーペからの重量増はわずか49kgに抑えられている。カーボンファイバーの剛性と強度がハイレベルのスパイダーは、クーペからの変更点としてリトラクタブルハードトップの他に、内蔵ロールオーバー保護システムと専用のリアアッパーストラクチャーがある。これらすべてにカーボンファイバーを採用し、軽量化と強度強化が行なわれている。これで旧「720Sスパイダー」より30kgの軽量化を実現した。
軽量化はメカニカルパーツにも及んでいる。「750S」のために開発されたサスペンションはフロントトレッドを「720S」から6mm拡大した新ジオメトリーを採用し、新設計のコイルスプリングとダンパーを採用。これで2kgの軽量化を図っている。
油圧リンク式サスはプロアクティブシャーシコントロールを新世代バージョンに進化させている。PCCⅢと名付けられた新しい車体制御はコイルスプリングの車体構造を制御。コイルスプリングとセミアクティブのダンパーを機械式アンチロールバーに代えて、ロール制御用油圧回路が組み合わされたダンパーのチューニングは、この後、試乗した時に、ワインディングや高速道路で実力の片鱗を体感することになるのだが・・・その真価はクーペでも十分味わうことができた。スパイダーは、その性格上、サーキットより一般道でも楽しめるクルマに仕上がっているはずだ。
0→100km/hの加速は4秒台
そう思いながら、コクピットに収まった。ホールドのよいハイバックのセミバケットシート。着座位置を高めにしても、頭上のスペースに圧迫感はない。上方に開くドアでの乗降性も良い。電動スイッチを操作し、ルーフを開ける。約12秒で折り畳まれ、リアのエンジン前、室内との間に収納される。Cピラーにあたる部分は、そのまま残っている。リアウインドウも開けることはできるが、半分降りたところで静止する。
それにしても、ドアを開閉した時の剛性感は素晴らしいものがある。クーペのドアはルーフの一部と共に上方に開くが、スパイダーの場合は独自の専用ドアだが、構造的強度が強いのでコンバーチブルルーフを組み込むときに、追加の補強材は一切必要としなかったという。
そして、このボディー剛性の高さは、ゼブラ舗装の路面で、コンフォートモードの時の上下動のしなやかな収まり、スポーツモードに切り替えたときの、キツめだが短いストロークでパッと収まる収縮の収まり具合でもわかる。
「750S」の美点は足まわりだけではない。ミッドシップされたV8、4.0Lツインターボ750PS、800Nmのパワーユニットと7速ATの組み合わせも魅力的だ。街中ではDレンジ、7速、60km/h、1000回転でも、滑らかに走る。その速度域からアクセルを踏みこんでも、750PSエンジンはためらうことなく、即座にアクセルペダルに反応して車速を上げていく。100km/hの巡航は7速2000回転、6速2700回転なので、高速走行は何のストレスもなく走る。
さすがに4.0Lツインターボは、低燃費は得意科目ではないようで、10.0km/Lを上回ることはなかった。しかし、このクルマのオーナーならそれは大した問題ではなく、アクセルペダルを踏みこんだ時のV8、ツインターボの迫力が大切に違いない。0→100km/hの加速は4秒台。エンジンはレッドゾーン(8100~9100回転)手前の8000回転まで、何のストレスもなく上昇し、シフトアップを繰り返していく。この爽快感も魅力だ。
しかも、その時のエンジンサウンドは、開放されたルーフと、降ろしたリアウインドからダイレクトにドライバーの耳に侵入してくる。スパイダーのユーザーだけに許されたドライブサウンドとルーフから入ってくる風、クーペ+400万円のエキストラには、この体感も含まれているのだ。
■関連情報
https://cars.mclaren.com/jp-ja/750s-spider
取材・文/石川真禧照 撮影/萩原文博