目次
「お見えになる」という表現を、ビジネスシーンや公共の場などで耳にしたことはありませんか。
使ったことがない方にとっては、「正しい敬語なのだろうか」「二重敬語ではないだろうか」と、不安になるかもしれません。また、場にそぐわない表現なのではと気になる方もいるでしょう。
「お見えになる」はどのように使う敬語なのか、わかりやすくご紹介します。ぜひ参考にして、「お見えになる」を適切な場面で使いこなしてください。
「お見えになる」は二重敬語!言い換えの表現もご紹介
「お見えになる」という言葉を、次のように使ったことはないでしょうか。
・お客さまがお見えになりました。
・お母さまがお見えになっていらっしゃいますよ。
来た人を尊敬して使う表現ですが、実際のところは二重敬語のため、誤りとされる可能性があります。
まず「見える」という言葉は、単独で「来る」の尊敬語です。また、「お〇〇になる」という表現も、尊敬の意を表します。そのため、「お見えになる」は尊敬表現が重複していると考えられます。
来た人を尊敬するときは、次の表現が適切です。
・見える
・来られる
それぞれの使い方について見ていきましょう。
参考:デジタル大辞泉
■見える
紹介したとおり、「見える」は単独で「来る」の尊敬語です。次のように使います。
・先生が見えました。授業に関係のないものは片付けてください。
・明日の早朝、田中さまがこちらに見えるそうです。
「見える」は、「目で確認できる」や「見ることができる」「そのように感じられる」という意味もあります。
・今夜は星も見えない。
・猫は暗闇でも見えるらしい。
・あの落ち込んだ様子では、試験に落ちたと見える。
参考:デジタル大辞泉
■来られる
「来る」に軽い尊敬の意味を示す助動詞「られる」をつけて、「来られる」と表現することでも、来る人への尊敬を示せます。
・お忙しいとは存じておりますが、こちらにも来られると嬉しいです。
・先生が教室に入って来られた。
なお、「られる」は可能の意味もある助動詞のため、「来られる」が軽い尊敬ではない意味で使われることもあります。
・明日は来られますか?難しいときは、早めに教えてください。
・忙しかったけれど、なんとか間に合って会場に来られた。
参考:デジタル大辞泉
間違いやすい二重敬語をご紹介
二重敬語は、通常、誤りとされます。しかし、使用例が多く、慣用的に使用していると思われる場合は、必ずしも誤りではありません。
よく使用されることがある二重敬語としては、次のものが挙げられます。
・おっしゃられる
・お伺いする
・お召し上がりになる
いずれも使用例が多いため、二重敬語ではありますが、必ずしも間違いとは言い切れません。それぞれの使い方について見ていきましょう。
■おっしゃられる
おっしゃられるとは、「おっしゃる」という尊敬語に、軽い尊敬の意味を持つ助動詞「れる」をつなげた言葉です。「おっしゃる」だけでも十分ですが、さらに「れる」を加えることで二重敬語になっています。
・先生が「教科書を見返しておくように」とおっしゃられた。
・おっしゃられることの意味がわかりません。
二重敬語を排除するなら、以下のように表現できます。
・先生が「教科書を見返しておくように」とおっしゃった。
・おっしゃることの意味がわかりません。
参考:デジタル大辞泉
■お伺いする
お伺いするとは、「聞くこと」や「尋ねること」、「訪問すること」の意味がある謙譲語「伺い」に、謙譲の意味を示す「お〇〇する」を組み合わせた言葉です。二重に謙譲の意を示しているため、二重敬語といえます。
・先生にお伺いしたところ、わたしの答えでも問題ないようです。
・明日、お伺いしてもよろしいでしょうか。
二重敬語を排除するなら、次のように表現できます。
・先生に伺ったところ、わたしの答えでも問題ないようです。
・明日、伺ってもよろしいでしょうか。
参考:デジタル大辞泉
■お召し上がりになる
お召し上がりになるとは、「食う」や「飲む」の尊敬語である「召し上がる」に、動作主に対する尊敬の意味を示す「お〇〇になる」を組み合わせた言葉です。二重に尊敬の意を示しているため、二重敬語です。
・話題のスイーツのようですよ。もうお召し上がりになりましたか?
・あちらの部屋で、先生がディナーをお召し上がりになっています。
二重敬語を排除すると、次のように表現できます。
・話題のスイーツのようですよ。もう召し上がりましたか?
・あちらの部屋で、先生がディナーを召し上がっています。
参考:デジタル大辞泉
「~してみえる」は東海地方の敬語
三重県や愛知県などでは、「〇〇してみえる」という敬語があります。なお、東海地方特有の表現とされていますが、異なる地域でも使われることがあるかもしれません。
・先生が教科書を読んでみえる。
・お父さんが電話をしてみえたので、後で相談することにします。
共通語では、次のようになります。
・先生が教科書を読んでいらっしゃる。
・お父さんが電話をしていらっしゃったので、後で相談することにします。
この場合、「みえる」は「見ることができる」や「来られる」などの意味はありません。尊敬を意味する「していらっしゃる」や「られる」などと置き換えられるでしょう。
違和感のない表現を心がけよう
「お見えになる」や「お召し上がりになる」「お伺いする」などの表現は、いずれも敬語表現が重複する二重敬語です。本来は間違った表現とされますが、使用例が多く、慣用的に使われることもあるため、一概に間違いとはいえません。
しかし、相手によっては違和感を持って受け止められる可能性があります。また、違和感だけでなく、勉強不足や非常識といったネガティブな印象を与えてしまうかもしれません。
相手とスムーズかつ心地よいコミュニケーションを取るためにも、二重敬語を使わないように意識してみてはいかがでしょうか。「お見えになる」ではなく「見える」「来られる」、「お召し上がりになる」ではなく「召し上がる」を使うように心がけることで、二重敬語のないすっきりとした表現になります。
構成/林 泉