日本はひとつではない。どうしてこの国は連邦制を敷かないのかと思えてしまうほど、実は様々な文化圏が寄り集まっている。
それをよく表しているのが日本酒だ。いや、「日本酒」という呼び方は妥当ではないかもしれない。同じコメを使った酒だが、甘さや辛さ、透明さ、味の広がり方に大きな違いがある。
が、現状は大手の蔵元の銘柄ばかりが注目され、中小のそれは影が薄い。若い世代に「こんなお酒があったんだ!?」という刺激を与えるには、今までとは違った形で日本酒を提供する必要がある。
そうしたコンセプトでブランド展開しているのが「ICHI-GO-CAN」だ。
日本酒を一合サイズの缶に
JR新橋駅にほど近い飲食店『カフェピアッザ』にて、2024 年6月20日から年6月22日までの期間限定で『NIPPON SAKE TRIP!!』というイベントが開催されている。
これは株式会社AgnaviとPIAZZA株式会社が主催し、JR東日本スタートアップ株式会社が協力する催し。具体的には、Agnavi社が展開するICHI-GO-CAN全60銘柄の飲食店提供だ。
このICHI-GO-CANは文字通り、日本酒を一合缶にしたものである。
ビールやチューハイはともかく、日本酒の缶というものは珍しい。なぜ、缶の日本酒はオーソドックスなものではないのか。これには複数の要因があるが、
「缶にする場合は必要ロット数が多くなってしまうのと、日本酒の蔵元はその建物自体が重要文化財に指定されていることから自前の缶詰工場を持つという判断は大きな困難を伴います。初期投資の面でどうしても不利を強いられてしまうのです」
と話すのは、Agnavi社代表取締役の玄成秀氏である。
「そこで我々は、各蔵元からお酒をまずはタンク詰めにして買い取ります」
そこから工場で酒を缶にして販売する、という過程をAgnavi社は手掛けている。小さなサイズの缶にすることにより、瓶詰めの商品よりも取り扱いが手軽になった効果も生み出しているようだ。
国内出荷量と輸出量の「ねじれ現象」
日本酒の現状は、残念ながら明るいとは言えない。
農林水産省農産局が2023年9月に作成したPDF資料が筆者の手元にあるが、それにはこう書かれている。
日本酒の国内出荷量は、ピーク時(昭和48年)には170万klを超えていたが、他のアルコール飲料との競合などにより減少傾向で推移。平成30年以降は国内出荷量の減少幅が大きくなり、これまで堅調に推移していた特定名称酒(吟醸酒、純米酒等)についても減少に転じ、令和4年では約40万klまで減少。
170万klが50年の間に40万klになってしまったのだ。ところが、輸出に関しては一転して堅調という現実も存在する。
日本酒の国内出荷量が減少傾向にある中、輸出量については、海外での日本食ブーム等を背景に増加傾向で推移しており、令和2年は新型コロナウイルス感染症の世界的なまん延等の影響により減少したものの、令和3年には大幅に回復。
日本人は日本酒を飲まなくなったが、日本国外の人は「Sake」を好んでいる。今や世界中の国際空港の免税品店に日本酒が並んでいるほどだ。
21世紀も20年以上が過ぎた現代、日本酒業界はあまりに異様なねじれ現象の只中にあるのだ。