「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする」をミッションに、2020年に住宅関連メーカーやIT企業などの企業が業界横断で集まり、業界の垣根を超えてユーザーのより良い暮らしを実現すべく設立された一般社団法人LIVING TECH協会。『LIVING TECHカンファレンス』は、協会設立前の2017年から開催されているイベントでユーザー視点、社会課題の解決、スタートアップの視点を盛り込み、1つのテーマを異業種のパネラーが多角的に議論するスタイルが人気となっている。
第6回となる今回は、「業界横断の共創でつくる、環境にも人にもやさしい、well-beingな暮らし」をテーマに、日比谷三井タワーからリアルとオンラインのハイブリッドで開催された。ここでは「ゆとり世代・Z世代の住まいの価値観~これからの住宅購買層はスマートホームをどう思う?~」についてリポートする。
パネリスト&モデレーター (右から順に)
<パネリスト>神垣雅也さん(ゆとり世代)
LIXIL デバイス事業部 IoT事業推進部
<モデレーター>卯月秀明さん
LIXIL デバイス事業部 IoT事業推進部
<パネリスト>白井桃子さん(ゆとり世代)
LIXIL デバイス事業部 IoT事業推進部
<パネリスト>堀江哉宇さん(ゆとり世代)
東芝デジタルソリューションズ ICTソリューション事業部 ifLink推進室
<パネリスト>平田侑子さん(Z世代)
minerai Inc.代表/くらしちゃん編集長
<パネリスト>上田麻衣さん(ゆとり世代)
SCSKサービスウェア株式会社 ビジネスサービスグループ
<パネリスト>深津美和さん(Z世代)
SCSKサービスウェア株式会社 ビジネスサービスグループ
ゆとり世代、Z世代の住宅購入意欲は「低い」
住宅領域において、今後の住宅購買層のメインとなる「ゆとり世代」や「Z世代」は、住宅購入についてどう考えているのだろうか?
情報収集源のSNSも様々な種類のものが増え、コスパではなくタイパが重視される時代に、彼らが考えるこれからの住まい・暮らしについて、建材・住設メーカーでありながら先進的にスマートホームに取り組むLIXILが、次世代の顧客たちとのパネルディスカッションから紐解いていく。
まず、ゆとり世代~Z世代のパネリストの6人に住宅の購買意識を尋ねたところ明確に「家を買いたい」と答えたのは1人だった。
「家は買えたら買いたいんですけど、社会の在り方も変わってきて男女も共に働いてますし、個人的に気にするのが転勤のリスク。個人的には絶対に家を買いたいとは考えていない」(神垣さん)
「私は1年くらい住むと次の家に住みたくなってしまう性格なので、(住宅を)買ってしまうと売る手続きなど面倒くさくなってしまうので、この性格が変わらないうちは賃貸かなと思っている」(平田さん)
「ゆとり世代のマイペースという特徴らしく、周りと比べるというより自分のペースでいいいと思っていて、家を買うのも絶対ではないという感覚がある」(白井さん)
「Z世代の『家を買うのは選択肢の一つ』という考えには共感をしていて、ちょうど結婚を考えているタイミングで家をどうしようという話もしているのですが、自分のやりたいことにお金を使いたいというのも考えているので家を買うのか、このまま賃貸で過ごすのか考えています」(深津さん)
「私も家を買うのは選択肢の一つと考えていて、いつかは買いたいという気持ちはありつつも、まだ洗濯はできていない状況。実家が田舎にあるので空き家問題も感じていて買うなら立地も考えないといけないと感じている」(上田さん)
「私は地方出身なので、家を買って一人前という意識はまだある。地元の友人たちも家を買っているので男としてちゃんとしなきゃなという思いもありつつ将来一軒家を買って犬と暮らすのが夢です」(堀江さん)
と、堀江さん以外は「今後の意識の変化はあるかもしれない」と前置きしながらも、購入に前向きなパネリストは少なかった。
その背景にある「結婚観の変化」
ゆとり世代は「結婚をしなくてもいい」が49.4%、Z世代は「価値観が合う人と付き合いたい」が80.7%だった。
「友人ともいろいろな選択肢があっていいという感覚は当たり前」(白井さん)
「(結婚を)絶対しないといけないとは思わない」(上田さん)
と、このデータを共感する声も目立っていた。
若い世代にスマートホームの便利さが徐々に浸透している
住宅の購入意識に続き、消費行動の特徴や彼らを表わす「デジタルネイティブ」といったワードも飛び交う中、スマートホームについての意識の高さは顕著に現われていた。
「私はいま、ロボット掃除機とスマートロック、スマートリモコン、スマートプラグ、スマート照明を使っています。でも、これは私が『くらしちゃん』というメディアに関わったおかげで、スマートデバイスをひとつ導入して『何これ!めっちゃ便利じゃん!』って急に沼にはまっちゃったんです。
今は賃貸なので後付けで導入したんですけど、家を買うとなったらスマートホームにした方がいいですね」(平田さん)
「私もスマホで空調のオン・オフができる環境になっています」(深津さん)
また、「防犯性」「利便性」「節約」「安心」など、スマートホームに何を求めるのかという問いからは最も多くパネリストが挙げたのが「利便性アップ」だった。
「私も利便性が一番です。私は仕事柄、自宅だけでなくスマートホーム化が進んでいる住宅を体験しているので利便性は実感しています」(神垣さん)
「遠隔での見守りや遠隔で何かを操作できるのはありがたいですよね。家に近づいたときに勝手にエアコンが付いたりお風呂を沸かしてくれたり、そういった生活が未来のことではなく、目の前に近づいていることを実感しています。早く普及してくれればと思っています」(白井さん)
「スマートホームを体験したことのある人とそうでない人で回答がだいぶ変わってしまう質問だと思います。一旦スマートホームを始めてしまうと利便性が高すぎてびっくりするんですよ。『ない』状態には戻れなくなる。だから今の私に聞くと『利便性』がダントツ一位です。やったことがない私に聞くと他の選択肢も重要だなとは思うかもしれません」(平田さん)
50、60代にとってはスマートホームを求める理由は「防犯性アップ」などもあるかもしれないが、20、30代は「スマートホーム=便利」という方程式が出来上がっているようだ。これは、最近のトレンドワードでもある「タイパ」を実現するための手段になっているのかもしれない。
こうしたゆとり世代・Z世代の声を受け、「LIXILでもいま一番重きを置いているのは『利便性』。利便性を重視した開発を進めている」(卯月さん)と今後のスマートホーム推進の可能性を言及していた。
スマートホームは購入層のシフトのカギとなるか?
住宅の着工件数は年々、低下している。2040年には49万戸にまで落ち込むことが予想されている。そんな住宅業界において「購買層の世代交代」はチャンスにも脅威にもなりうるトピックだ。
現在、ポスト団塊ジュニア世代(40代前半)以上の世代の持ち家率は5割を超えており、一方でさとり世代は4割程度、ゆとり世代は3割弱、Z世代は1割にも満たないのが現状だ。これからの住宅購入層の主役は間違いなくゆとり世代やZ世代となる。
このセッションではゆとり世代、Z世代の住宅購入意欲は「すごく低い」一方で、スマートホームへの興味は「高い」ということが顕著に表れた。
現在、賃貸に後付けをしながらスマートホームに利便性を感じている彼らが住宅を購入する意思決定の後押しの一つとしては、利便性やタイパのよい暮らしを実現できるスマートホーム仕様の家として提案できるかが今後、求められるだろう。また、同時に住宅を購入しない層にとっても、賃貸物件がスマートホーム化されているかどうかも差別化のポイントになるはずだ。
各企業は彼ら若い世代の声にも耳を傾け、検討していく必要があるだろう。
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特設サイト
https://livingtech.ltajapan.com/ltc006/
取材・文/峯亮佑