マイナ保険証利用メリットの丁寧な説明や啓蒙が必要
ヘルスケアパスポートを導入している医療機関の一つ、千葉県佐倉市の東邦大学医療センター佐倉病院は、地域に貢献する病院としてPHRの活用促進も念頭に置いている。マイナ保険証への完全移行にまつわる課題と期待についてインタビューを行った。同院の薬剤部 平井氏が回答した。
●マイナ保険証へ完全移行することの課題
「マイナ保険証への完全移行はスケジュールも確定しているため、移行自体は予定通り実施されると考えております。その一方で、課題点も残され、移行前後に利用者側からのクレームや相談、個人情報やシステムに関するトラブルが想定されますし、医療機関によってはシステム移行のコストや準備に労力を要するなど負荷になることも考えられます。
その中で、利用者側の課題が大きいと感じており、医療DXを推進する上でのマイナ保険証のメリットの理解が国民、医療従事者に広がっていないことなどが挙げられます。引き続き、丁寧な説明や啓蒙活動などが求められるでしょう」
●マイナ保険証浸透によるPHR普及の可能性
マイナ保険証が浸透することによってPHRの普及が期待されているが、どうすればより一層、普及が進むだろうか。
「マイナ保険証へ移行、普及することで、PHRで活用可能な検診等の情報を連携することが可能になりますが、生活者の健康や医療への関心を高め、PHRの意識を根付かせる上では、PHRベンダーによるPHRシステムの開発推進と、医療現場側とPHRシステムの情報連携がキーになると考えています。投薬や診断、検査結果が紐づかないことには、PHRが片手落ちとなり、利活用が十分になされないことも懸念しています。特に後者は、医療機関によってセキュリティやハード・ソフト機器にばらつきがあり、外部システムとの画一的な連携に大きな課題があると感じています。
医療DX推進が望まれる中、医療機関のシステムやセキュリティの標準化が後押しとなり、PHRがより意義の高いものになれば、利用者の医療リテラシー向上につながると考えています」
PHRサービスのヘルスケアパスポートなどは今後、どのような可能性が生まれるか。
「マイナ保険証へ移行することで、さらに健康・医療に関する情報の紐づけができれば、生活者の健康志向や医療リテラシーの上昇、治療へのモチベーション向上などが期待されます。連携される内容やシステム開発の推進などによりPHRの意義が高まれば、そのメリットはより大きくなるかと思います。
さらに、ePRO(※)の側面も有するヘルスケアパスポートでは、それらのメリットが生じることで、がん薬物療法等における治療効果の向上や副作用の軽減、QOL向上などにもつながるのではないかと期待しています」
※ePRO:臨床試験やモニター試験の患者・被験者からのさまざまなデータを指す「PRO:Patient Reported Outcome=患者報告アウトカム」を「electronic=電子的に」行うこと。「電子的患者報告アウトカム」と訳される。
マイナ保険証への切り替えにより、生活者としては自身の健康・医療情報がより身近になるだろう。PHRの活用を積極的に行うことで、自身の健康および周りの健康増進につながる可能性がある。
文/石原亜香利