2024年12月2日に健康保険証が廃止され、マイナンバー健康保険証(マイナ保険証)へと完全移行する。移行にはまだ課題がある一方で、生活者も医療機関もデータ活用が加速することで、便利になる可能性も生まれている。今回は、マイナ保険証への完全移行によるPHR(パーソナルヘルスレコード)活用の可能性について探った。
マイナ保険証への完全移行によるPHR浸透の可能性
いよいよ従来の健康保険証が廃止され、猶予期間を経て、マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」に一本化される。医療機関や薬局などの受診の際に、マイナ保険証をカードリーダーにかざすことで、本人確認と資格確認が行えるようになる。
また、本人がマイナンバーカードによる本人確認をした上で同意した場合に限り、医療機関などは記録された薬剤情報・診療情報・特定健診等情報を閲覧できる。その結果、重複投薬や記録に基づく正確な履歴をもとに診断・診療などを行える。
従来からマイナンバーカードと健康保険証の一体化の取り組みは進められていたが、普及率が低かった。その改善策として今回の完全移行に至った。
●PHR(パーソナルヘルスレコード)との関係
PHR はPersonal Health Record の略語。一般的には、生涯にわたる個人の保健医療情報、つまり健診(検診)情報、予防接種歴、薬剤情報、検査結果等診療関連情報及び個人が自ら日々測定するバイタル等のことを指す。代表的なのが、マイナ保険証と連携可能な「マイナポータル」だ。処方箋の情報や予防接種履歴、健診結果などが蓄積されるほか、民間企業提供のPHRサービスと連携できることから、合わせて体重や歩数、血圧、食事・睡眠のライフログなどのパーソナルデータの記録・管理も可能だ。
マイナ保険証が普及すれば、マイナポータルやPHRサービスの利用が進むことに期待が高まっている。
PHRサービス「ヘルスケアパスポート」でPHR活用の普及を目指す
健康な一般個人ユーザーとしては、日々のライフログなどの管理のほうに興味がわくだろう。マイナ保険証への切り替えをきっかけに、マイナポータルおよび民間企業のPHRサービスの活用を、日々の健康管理に役立てるのもよさそうだ。
例えば、TIS株式会社の「ヘルスケアパスポート」はPHRサービスの一つ。医療機関、薬局、自治体、生活者が健康・医療情報を共有できる仕組みだ。すでに千葉大学医学部附属病院や兵庫医科大学ささやま医療センターなどで導入実績がある。
同サービスを導入している医療機関などを利用する際に生活者がスマートフォンアプリを使って、問診情報や生活習慣、検査結果、処方内容、バイタル情報などを蓄積することで、情報を通じて「つながる」上に自身の健康管理に役立てられる。
2023年11月にはマイナポータルと連携を開始。すでにマイナポータルに蓄積されている過去に処方された薬剤や健診情報などもヘルスケアパスポートに登録できるようになった。
マイナ保険証へ完全移行することによって、ヘルスケアパスポートにはどのような影響が生まれるか。ヘルスケアパスポートのサービスオーナー吉田博人氏は次のように答える。
「マイナ保険証への完全移行により、一般の方々の健康への関心が高まることを期待しています。マイナ保険証を使うことで、ご自身の医療情報を医療従事者の方へ共有することができるようになりますが、ご自身もその情報に関心を持ち、健康意識を高めることができると、ヘルスケアパスポートのようなPHRサービスの利用者も増えていくと考えています。実際にマイナポータル連携機能を利用した方からは『非常に便利』と評価いただきました。より多くの方に、その便利さに気づき、ご自身の医療情報を有効活用していただきたいと考えています」
「ヘルスケアパスポート」のマイナポータルとの連携機能イメージ
今後、PHRの活用が生活者の中に浸透していくにはどのようなことが必要になるだろうか。
「生活者の方がご自身の健康に意識が向くこと、そして、PHRを医療従事者へ共有することで、今まで以上に自分のことを理解してくれている、自分に合った適切な医療を受けられているといったことを実感できる機会を増やすことが大切だと考えています。その結果として、自ずと自身のPHRを管理・活用することのメリットに気づく方が増えていくのではないでしょうか。
そのためには、医療機関でのマイナ保険証を活用した医療情報の閲覧に加え、マイナンバーカードを活用してご自身が医療情報を取得・管理・活用できる仕組みを民間PHR事業者が整えることが必要だと考えています。さらに、PHRを民間ヘルスケアサービスへ連携し、健康づくりにつなげていくことも重要だと思います」