6月も下旬に入り、夏が近いことを感じさせる気候となってきた。となれば、BBQやビアガーデンなどで飲む一杯がたまらない、という人も多いはず。
しかしながら、夏の飲酒には危険が数多く潜んでいると言われており、注意が必要だという。
そんな中、「治療アプリ」を研究開発・製造販売する医療機器メーカー、CureApp社員で医師の宋 龍平氏から関連リポートが届いたので、その概要をお伝えする。
東京で毎年1万人が救急搬送される危険な行為とは
暑い夏に水分補給代わりにゴクゴクとビールを飲み干してしまう人もいるのではないか。
夏の飲酒で特に危険なことのひとつが「脱水になりやすいこと」。アルコールには利尿作用があるので、飲酒により体内の水分が失われてしまうからだ。
さらに夏は発汗によりさらに脱水状態となり熱中症のリスクが高まるうえに、血中のアルコール濃度が上昇して、急性アルコール中毒のリスクも高まる。
東京消防庁の調査によると、毎年1万人以上が急性アルコール中毒により搬送されている。月別に見ると宴会の多い12月についで、7月、8月の搬送者が多いことがわかっている。
急性アルコール中毒になると意識レベルが低下、嘔吐、呼吸状態の悪化など危険な状態になり、命を落としてしまうこともある。
下記の<健康に配慮した飲酒の仕方>を参考に、十分に注意したい。
<健康に配慮した飲酒の仕方>
(1)自らの飲酒状況等を把握する
自身の飲酒状況を把握するツールのひとつとして、アルコールに関する問題をスコアリングする AUDITというテストがある。10項目の簡単な検査なので、受けていただきたい。
https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/screening/audit.html
(2)あらかじめ量を決めて飲酒する
(3)飲酒前または飲酒中に食事をとる
(4)飲酒の合間に水、または炭酸水を飲む
(5)1週間のうち飲酒しない日をもうける
■睡眠のためのそのお酒、実は逆効果かも⁉お酒と睡眠の関係
夏の夜は気温が下がらず眠れないこともある。寝苦しい夜にはついついお酒に頼ってしまう人もいるはず。
実際、日本人の30.3%が寝酒の経験があるという調査もある。この調査は10か国で行われ、寝酒率は日本がトップだった。
アルコールは確かに寝つくまでの時間を短縮させるが、睡眠の質を著しく悪化させることが知られている。
何度も目を覚ます中途覚醒や、朝早く目覚めてその後眠れなくなる早朝覚醒が多くなり、熟睡感も乏しくなってしまう。
アルコールを毎晩飲んでいると、酒を飲まないと眠れない状態になってしまうこともある。不眠症はうつ病をはじめとした様々な精神疾患の初期症状として現れることが多くあり、飲酒自体が不安障害やうつを引き起こしたり、気分の落ち込みを悪化させる要因にもなり得る。
お酒を飲まないと眠れない人は、医師に相談することをおすすめする。
■夏は〝痛風の季節〟、あの痛みを避けるには
痛風は、高尿酸血症が原因で尿酸の結晶が足の親指などの関節に蓄積し、激しい痛みや炎症がおこる病気だ。健康診断などで尿酸値が7.0mg/dlを超えていると高尿酸血症と診断される。
その原因のひとつにアルコール摂取がある。昨今、健康意識の高まりとともに尿酸のもとになるプリン体を気にして、プリン体をカットしたアルコール飲料を飲まれている人も増えてきた。
しかしながら、あまり知られていないが、実はプリン体が含まれていなくとも、アルコール自体に尿酸値を上げる働きがある。
飲酒や発汗で脱水状態になりやすい夏はよりいっそう尿酸値が上がりやすい。プリン体が多く含まれる食品、飲料を避けることも大切だが、アルコールの量を減らすこともぜひ考えてみていただきたい。
生活習慣病のリスクを高める飲酒は「一日の平均純アルコール摂取量が男性40g、女性20g以上」と言われている。
これには個人差があり、飲酒の影響を受けやすい体質の人はもっと少ない量で影響が出ることもある。
主な酒類の純アルコール量を下記に示すので、自身にとっての適切な飲酒量を把握しておきたい。
■健康は一日にしてならず。まずは「減酒」から
夏に起こりやすいアルコールによる健康被害についてお伝えしてきた。今回紹介した健康被害の他にも、アルコールは高血圧、肝障害、様々ながんなど多くの身体疾患の原因であることがわかっている。
このような健康被害を防ぐために、重篤な状態に陥る前にまずは飲酒量を減らす事が重要だ。自身の飲酒習慣に不安を感じている人は、一度かかりつけ医に相談することをおすすめする。
宋 龍平氏
株式会社CureApp / 岡山県精神科医療センター 医師
東京医科歯科大学 精神行動医科学 非常勤講師
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野 研究協力員
長年、アルコール依存症に精神科医として向き合う中で、早期治療普及の重要性を痛感し、CureAppで減酒治療アプリプロジェクトを立ち上げた。最前線の診療現場に立ちながら、研究にも精力的に取り組み、日本アルコール・アディクション医学会を始め、複数の学会で受賞歴がある。
構成/清水眞希