嬉しい知らせや楽しい話題に囲まれて日々を平和に過ごしたいものだが、実際のところ我々は悲しいニュースについつい目を向けてその内容をチェックしてしまうのだという。ニュースではなぜ【悲報】のほうがより注目を集めてしまうのか――。
悲しいニュースは多くの注目を集めている
昭和や平成前半の頃、購読している新聞を毎日隅から隅まで読むという読者は決して珍しくはなかったが、ネットニュースが主流になった今日、ウェブメディアやSNSから日々提供される膨大なニュースをすべて追うことはもはや不可能である。
そこで今まで以上に重要になってくるのがニュースの見出しだ。時間的にすべてのニュースに当たれない以上、当然我々はその見出しから読む記事を取捨選択しているのである。
では選ばれるニュースの見出しには何か特徴があるのだろうか。その鍵を握るのが見出しに含まれる〝ネガティブワード〟であることが最近の研究で報告されていて興味深い。我々は見出しが物語る否定的な【悲報】を好んで目にしている顕著な傾向があるというのである。
米ニューヨーク大学をはじめとする合同研究チームが2023年3月に「Nature Human Behaviour」で発表した研究では、ニュースの見出しに否定的な言葉があると、ユーザーがニュース記事をクリックする可能性が大幅に高まることがビッグデータの分析を通じて示されている。
研究チームがバイラルコンテンツの作成に長けていることで知られるウェブメディア「Upworthy.com」の10万件以上のニュースの見出しを分析したところ、平均的な長さの見出しの場合、否定的なネガティブワードが1つ増えるごとにクリック率が2.3%上昇していることが突き止められたのだ。
この結果は、これまでにもメディア消費でよく見られている傾向を反映しており、否定的な情報は肯定的な情報よりも注目を集める傾向があることが確認されることになった。この現象は「ネガティブ・バイアス」と説明されることもよくある。
ネガティブ・バイアスとは、ポジティブな情報よりも、ネガティブな情報に注意を向けやすく記憶にも残りやすい傾向のことで、 たとえば個人の過去の記憶でも、幸福な思い出よりはトラウマとなるような否定的な体験のほうがより印象強く記憶されることが多いという。
ネガティブワードで構成された【悲報】が人々の注意を引き付けている一方、〝ポジティブワード〟には逆の効果があることも今回の研究で明らかになった。
平均的な長さの見出しの場合、肯定的なポジティブワードが1つ増えるごとにクリックの可能性が1%減少していたのである。これは肯定的なニュースである【朗報】は緊急性や深刻度が低いと認識される可能性があるため、見逃されやすいということだ。
さらに興味深いのは、同じネガティブワードでも恐怖や怒りを誘う言葉はそれほど注目を集めていないどころかむしろクリック数にマイナスに働くケースもある一方、悲しみを誘うワードが含まれる見出しのクリック率が顕著に高いことが明らかになったことである。悲しいニュースである【悲報】はかくも多くの注目を集めている実態が今回の研究で浮き彫りになったのだ。