盗難車でやって来る犯罪集団
「ところで、この資料のイラストには侵入犯が複数書かれていますが、実は〝複数の泥棒〟というのは全体的に見れば珍しいのです。侵入窃盗犯罪は、多くの場合単独犯です」
そう付け足したのは松本氏である。
「中部地方ではこうしたことが多く、犯罪集団は3~4人でやって来ます。1人は見張り役として車内に残し、残りの2人か3人でバールなどを使って玄関ドアをこじ開けます」(松本氏)
その上で、犯罪集団は統一した服装でやって来る。防犯カメラに映ることは最初から考慮していて、あとで警察に問い詰められた際は「自分じゃない」と言い張るのだ。なお、彼らが犯行に使う車は盗難車である。実行犯のメンバーは、いわゆる「闇バイト」で集まっただろうということは想像に難しくない。
「ただ、これも最近では少なくなりました。警察がそうした犯罪集団を大量に捕まえたというのもあります。我々も、被害家屋を何十件と回って傾向を調査し、対策をお伝えしています」(松本氏)
正面突破を防ぐ「カーポートバリア」
こうした正面突破型家宅侵入を防ぐ最も確実な方法は、「カーポートバリア」である。カーポートの前にゲートのような可動式の仕切りを設けるのだ。
「できれば施錠できるバリアがいいのですが、そうでなくとも効果は見込めます」(松本氏)
カーポートバリアがあることで、カーポートへの侵入の難易度を上げてしまう。犯罪集団の車は道路上に駐めるしかなく、道幅によってはその車が通行を妨げてしまう。つまり、ここに「何だか不審な車がいる」という「みまもり」の効果が表れるのだ。カーポートバリアのおかげで、逃走の際の方向が一方向に限定される点も忘れてはならない。
「何十件も調査をした結果、やり方は想像できました。ですから、そのやり方をさせない設計にするということが重要です」(松本氏)
犯罪者の心理を読む
ここで筆者と松本氏は、「犯罪者の心理」についての議論に突入した。
筆者は子供の頃からアガサ・クリスティーの推理小説が大好きで、今もしばしば読んでいる。クリスティーの作品は「犯人はこう考えているから、きっとこのように行動する」という心理学に基づいている。これはクリスティーが最も精力的だった1920年代後半から30年代にかけての時代、極めて斬新な発想だったはずだ。ポワロもミス・マープルも、犯人と思わしき人物の心理を先読みして裏を掻き、彼もしくは彼女の犯行を暴いている。
「しかし、一般の人が〝犯罪者の心理〟を考えて対策を立てようとすると、大体が間違った方向に行ってしまいます」(松本氏)
防犯照明にまつわる「誤解」
我々はポワロでもミス・マープルでも、あるいはシャーロック・ホームズでもコロンボ刑事でもない。にもかかわらず、「犯罪者の心理」などというものを考慮してしまうと落とし穴にはまってしまうことがあるそうだ。
「その一例が、玄関外の防犯照明です」(松本氏)
侵入犯は、必ず道路側つまり玄関ドアの向こう側からやって来る。従って、防犯照明を道路に向けて照らせば犯人が驚き、犯行を躊躇するはずだ……というのは間違った発想である。
道路側に照明を向けるということは、それが光るまでの間に侵入犯が照明の奥側に移動してしまえば、逆光でむしろ姿を確認しづらくなるということだ。ゆえにこの場合は、家の奥側に照明を向けるのが正しい。
次回は、夏場に気をつけたい「勝手口専門の泥棒」についての解説だ。
取材・文/澤田真一