プログラムせずに使える「GPTs」
次にご紹介するのは「GPTs」という方法です。ChatGPTでのみ使えるサービスですが、あらかじめセットしておいたプロンプトとナレッジデータをもとに専用のチャット環境を提供してくれます。
サービス開始時は有料のChatGPTユーザーのみが使える機能でしたが、現在ではGPTsを作ることができるのは有料ユーザー、出来上がったGPTsは無料ユーザーでも使えるという環境になりました。
作り方も簡単で、複雑なプログラムなどは必要ありません。「GPTビルダー」と呼ばれるチャットボットとの会話で質問される内容に答えることで作っていくことが可能です。自分専用のチャットの名称やその目的などを答えていくと、その「設定内容」が埋め込まれたGPTsが出来上がるので、追加編集して完成させます。
この際に必要となる社内情報は、WordやPDFなどの社内情報をアップロードする形になるので、あまり機密性の高いものの利用は抵抗があるかもしれませんが、非常に手軽に自社専用のチャットを作成することができます。さまざまなファイルをアップロードすることが可能ですが、あまり容量の大きなファイルを使うと回答の精度が著しく下がる場合もあるようです。
完成したGPTsは自分だけで使うことも、誰かに共有することも可能です。個々のGPTsはそれぞれのURLを持っているので、これをグループメンバーに通知して使ったり、全世界に公開して使ったりすることもできます。会社で1アカウントだけChatGPTの有料契約をして、試しに作成してみるのも良いかもしれません。
RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)
続いてご紹介するのは、「RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)」という手法です。GPTsはChatGPTでしか使えないものでしたが、こちらは多くのサービスで使うことができます。RAGはその名の通り、外部で検索してきた情報を踏まえてプログラムでプロンプトを作成し、生成AIに答えてもらう手法です。
広い意味ではネットの情報を検索した結果を踏まえて答えてもらえばRAGということになりますし、社内のデータベースから全文検索した結果を踏まえてもらうのもRAGです。ただ、生成AIの技術者界隈でRAGといえば、専用のデータベースであるVectorStore(ベクターストア)を用意し、そこに溜め込んだデータをもとに回答する手法を指していることが多いです。
このRAGのメリットは、データベースを社内に用意することで情報の流出を防げる点があります。またChatGPT以外のサービスでも利用可能なため、性能の良いサービスや、コスパの良いサービスなどを用途に合わせて変更することが可能です。
企業での導入を考える際にはRAGが良い選択肢になりそうです。ただ、VectorStoreの用意やデータの投入、プロンプト作成のためのプログラムなど専門的な知識を必要とした開発が伴います。他の手法である程度試してみて、対象の業務を決めてからRAGの検討を始めてみるのがおすすめです。
ファイルを置いて参照させるだけでも
またGoogleの生成AIのサービスである「Gemini」であれば、参照の許可を与えることで「Google Drive」に保存されたファイルや、GMailの内容などを踏まえて回答することが可能です。膨大にデータがあると精度が伴わない可能性はありますが、特定の用途に絞ってGoogleアカウントを作成するのも手段としては有効です。
この機能に関して、今後はChatGPTもオンラインのファイルを参照することが可能になるようですし、他のサービスも追従することが予想できます。
徐々に浸透するノーコード環境
こうしてみると、企業の業務活用の一環として考えるならばRAGという選択肢が最も有効です。
とはいえ「本格的な開発費用の予算が取れているわけでもないし・・・」と考える方には、まずはノーコード環境でやってみることをおすすめしたいと思います。
最近注目されているサービスとして「Dify」というサービスがあります。画面の操作だけでRAGの環境をはじめとした生成AIの活用ができるものです。プログラムの代わりに画面操作があるということも嬉しいポイントではあるのですが、VectorStoreの準備などは一式含まれている点や、読み込んだデータの取捨選択など、環境構築後に必要となるであろう作業が画面操作で気軽にできる点も大変ありがたい機能です。
さらにDify上で作成した独自チャットを、社内外のWebサイトに取り込む方法も提供されているという至れり尽くせりのサービスなので、ぜひ一度チェックしてみることをおすすめします。オープンソースで無料で自社用の環境を用意することもできますし、用意されているクラウド環境を使うこともできます。
まとめ
自社用にカスタマイズしたチャットツールを作るいろいろ手法を見てきましたが、いかがでしたでしょうか?
生成AI自体の発展スピードも早いですが、それに伴って使い勝手に関する周辺技術もどんどん加速しています。これまでのような自社での開発案件になるとシステム開発会社に発注して予算が問題になる話ではなく、担当者一人がちゃんと調べれば活用手段はいろいろと見つけられる時代になってきています。
業者任せにするだけではなく、ご自身でチャレンジすることもぜひ考えてみてください!
森 一弥(もり かずや) https://twitter.com/dekiruco
アステリア株式会社 ノーコード変革推進室 エバンジェリスト。 テレワーク推進の波に乗り、某有名SFアニメの聖地である箱根に移住。アニメや漫画、甘いものとかっこいいクルマをこよなく愛す、気ままな技術系エバンジェリスト。 AIやブロックチェーンなど先端技術とのデータ連携を得意とし、実証実験やコンサルティングの実績も多数。見聞きしたことは自分でプログラミングして確かめた上でわかりやすく解説することが信条。 現在は AI や IoTなどの普及啓発に努め、生成AI協会(GAIS)のエバンジェリストとしても活動中。