海を切り取ったようなプールには旬な魚とウミガメたちの姿が
校舎から見下ろすとそこには日当たりのよいプールが広がる。しばらく眺めているとプールサイドで三角座りをしてプールに入る順番を待っていたあの子、バシャバシャとビートバンにつかまりながら水しぶきを上げて泳ぐことに夢中だったあの子。そのにぎやかな声や水音がよみがえってくるような懐かしさを感じる場所だ。
今では室戸の海で水揚げされたさまざまな魚たちがこのプールを回遊している。
海を切り取ったかのようで、透明度の高いプールにサバの群れが回遊する姿を見つける。背中にはサバ特有の模様までもハッキリと見ることができる。スーパーではサバの模様をまじまじと見ることはないけれど、回遊するその姿がなんだか迷路を背中に記された異世界の生き物のようで、不思議な気持ちで眺めていられる。
このプールでは時期によってさまざまな旬の魚たちが回遊する。なのでサバが回遊していない時期もある。
どんな魚が回遊しているかは、行ってみてのお楽しみだ。
サバが回遊するその奥には、浅い低学年用のプールがある。
保護されたウミガメたちが悠々と泳いでいる姿を間近に見ることができる。
このウミガメたちは本来、ウミガメの調査研究のため、一時的に保護し、再び調査タグをつけて室戸の海へ放流される。
保護されたウミガメによっては、傷ついた個体や病気になっている個体なども少なくない。そういった個体は慎重に観察され、必要に応じて治療が施される。そうした努力によって、健康を取り戻したウミガメたちは、再び室戸の海へ帰っていく。
広い海を眺めていると、こんなに大きな生き物がこの海に暮らしていることを頭ではわかっていても、実感するのはなかなか難しい。一時だけでもこの水族館のプールで出会える彼らの大きさを目の当たりにすることで、広い海の偉大さやそこに住む生き物たちの貴重さを感じることができるのではないだろうか。
「交通の不便な場所だけどその不便さの中にはここにしかない魅力がある」
実際のところ、気軽に立ち寄れる場所にない「むろと廃校水族館」ではあるが、お伝えしてきた通りウミガメの生態についてはもちろんのこと、室戸の海のこと、そこで働く漁師さんや漁業関係者の方々のこと、さらにはイベントを通じて感じる室戸で暮らす人たちの温かさなど「廃校を活用した水族館」という枠にとらわれない、地域の人たちと共にウミガメをきっかけとしてつながっていく物語はそれを知る者を幸せな気持ちにもさせてくれる。今もこれからも室戸の海の生き物を織り交ぜてクリエイティブに情報を発信し続けるこの水族館には、四国旅行に訪れる際、目的の一つに加えて価値ある魅力が詰まっている。さっそく「むろと廃校水族館」への行き方を調べてみてほしい。
【取材先】
・むろと廃校水族館
〒781‐7101 高知県室戸市室戸岬町533‐2
TEL:0887‐22‐0815
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・日本ウミガメ協議会
〒573-0163 大阪府枚方市長尾元町5-17-18 マルタビル302号室
TEL:072-864-0335
(HP)
【写真/記事】
・動物園写真家 / 動物園ライター 阪田真一(HP)/ Twitter (LINK)/ note(LINK)