動物園・水族館・植物園を専門に取材している動物園写真家・動物園ライターの阪田真一が動物園・水族館に棲む生きものたちの魅力をはじめ、各園館が取り組んでいる活動とそれを支えているスタッフや企業との関わりを紹介している。
今回の取材で訪れたのは高知県室戸市。太平洋に面した海が綺麗な室戸岬である。
そして取り上げるのは水族館である。と、その前にこちらを見てほしい。
これは水族館の近くのレストラン「ドライブイン夫婦岩」で提供された「サバのすき焼き定食」である。
この大きなサバの切り身が入った「サバのすき焼き」。通常のすき焼きとは違ってサバのうまみが凝縮された肉厚な身をかみしめるほどに、旨味が口に広がる。箸を進めるその一口一口にサバで満たされる喜びさえ感じてしまうほど美味しい驚きのサバ料理である。記事を書きながら思い出して恋しくなる。
これは3月8日の「サバの日」にちなんで考案されたイベント用のメニューなのだ。このイベントは、ここだけのものではない。
このイベントには室戸市内の飲食店がいくつも参加しており、毎年2月1日~3月8日のサバ漁最盛期の、サバがとても美味しい時期に『サバらしい日々』と銘打って2020年から「むろと廃校水族館」が中心となって行っているものだ。
この『サバらしい日々』では室戸市内の各飲食店が独自のサバ料理を提供している。様々なサバ料理と巡り合えるのはサバ好きにとってはたまらないイベントである。
「むろと廃校水族館」を訪れた旅行者はこのイベントを通じて、それらの店舗を巡り室戸市で獲れた旬のサバを堪能するだけでなく、地域の魅力にも触れられる人気のイベントとなっている。この時期にあわせて、ツーリングで訪れる人たちもいると聞いた。海岸線を海風を感じながら走るのはとても気持ちがよいだろう。
このイベントは多くの人を室戸に呼び寄せるきっかけとなっているのだ。
「水族館の運営の裏では町おこしをするクリエイティブ集団」
地域を盛り上げる企画を生み出すこの「むろと廃校水族館」は、高知県室戸市の東側にある室戸岬町の旧室戸市立椎名小学校を利用して2018年4月26日に開館した。
人が集まる場所の象徴ともいえる小学校は、イベントの打合せなどで関係者が集まるときにもとても都合の良い場所でもある。開館当初から多くの来館者に恵まれ、また地域の人たちにも愛されているこの水族館。他県からの旅行者を水族館だけではなく、近年減り続けている室戸市内の飲食店の活性化につなげられないかと始まったのが『サバらしい日々』というイベントである。
このイベントのもうひとつの魅力は、「むろと廃校水族館」と参加する飲食店、観光施設で使えるチケットのセット販売である。そのチケットセットを購入するともらえるのは、むろと廃校水族館スタッフがデザインした「手ぬぐい」や「Tシャツ」「プルプル活き良く震えるサバのぬいぐるみ」である。これらを目当てに他県からこの時期を楽しみに訪れる観光客も多い。
特に「ぷるぷる震えるサバのぬいぐるみ」は人気が高いようだ。このイベント期間中でなくても館内ではサバ、ブリ、シュモクザメのぬいぐるみなどが当たる、くじ引きを楽しむことができる。多くの人は食材として認識しているサバやブリを、ぬいぐるみで手にすることがとてもシュールで可愛いらしい。職場のデスクなどに飾れば魚好きであることをアピールできるのではないだろうか。
「水族館とは言うもののその始まりはウミガメ研究」
実はこの「むろと廃校水族館」を運営しているのは、「日本ウミガメ協議会」というウミガメの調査・研究を行い、その結果を分析してウミガメの保全活動を行っている団体なのである。
同協会は、2001年から室戸市を拠点として定置網漁の網にかかるウミガメの生態を調査研究しており、2003年には常駐の調査員を室戸市に置き、漁師の方々の協力を得て調査研究を行っている。また、これまで築き上げてきた漁師の方々との絆が、いまの水族館の運営をも支えている。
この水族館の始まりは室戸市が旧室戸市立椎名小学校の活用事業者を公募していたことが発端となる。常日ごろから調査研究を行っていく中で一時的にウミガメたちを保護観察する場所を探していた「日本ウミガメ協議会」がその公募に手をあげたことがきっかけで「むろと廃校水族館」が誕生することとなったのだ。
ウミガメの研究拠点としてだけではなく、長年にわたり調査研究でお世話になっている室戸の海の生態を知ってもらう場としての役割を担った施設なのだ。