スペースデブリ(宇宙ごみ、以下デブリ)除去を含む軌道上サービスに取り組むアストロスケールホールディングスの子会社で、人工衛星システムの製造・開発・運用を担うアストロスケールは、2024年2月に開始した商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ、Active Debris Removal by Astroscale-Japan の略)」のミッションにおいて、観測対象のデブリから約50mの距離へ接近に成功。
さらにその距離において定点観測を実施した。これは、民間企業がRPO(ランデブ・近傍運用 ※1)を通じて実際のデブリに接近した、世界で最も近い距離(※2)だという。
※1 RPO:Rendezvous and Proximity Operations Technologiesの略称。
※2 過去に同様のミッションが実施されたか否かを同社で調査(2024年5月)
観測対象のデブリの画像(2024年5月、デブリの後方約50mの距離から撮影)
商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」が果たす役割とは
運用を終了した衛星等のデブリは非協力物体(※3)と呼ばれ、外形や寸法などの情報が限られるほか、位置データの提供や姿勢制御などの協力が得られない。
※3 非協力物体:接近や捕獲・ドッキング等を実施されるための能力・機器を有さない物体のこと
そのため、その劣化状況や回転レートなど、軌道上での状態を把握しつつ当該デブリに安全・確実にRPOを実施することは、デブリ除去を含む軌道上サービスを提供するために不可欠な技術となる。
ADRAS-Jは実際のデブリへの安全な接近を行ない、近距離でデブリの状況を調査する世界初(※4)の試みだ。具体的には、大型デブリ(日本のロケット上段:全長約11m、直径約4m、重量約3トン)への接近・近傍運用を実証。長期間軌道上に存在するデブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行なう。
※4 過去に同様のミッションが実施されたか否かを同社で調査(2024年5月)
■デブリの後方約50mへの接近とデブリの定点観測にも成功
2月22日より開始した接近の運用では、軌道投入時にはデブリと異なる軌道にあった衛星を、 GPSと地上からの観測値という絶対的な情報を用いて(絶対航法)デブリと同じ軌道へと調節。デブリの後方数百kmにまで接近させた。
4月9日には、ADRAS-J搭載のVisCam(可視光カメラ)にてデブリを捕捉したことで、衛星搭載センサを駆使してデブリの方角情報を用いる相対航法(AON※5)を開始。
※5 AON:Angles-Only Navigationの略称。デブリの方角情報を用いる相対航法
この方角情報も用いながら相対軌道を制御して距離を詰め、デブリの後方数kmの距離において衛星搭載のIRCam(赤外カメラ)にてデブリを捕捉した。
4月16日、IRCamによって取得するデブリの形や姿勢などの情報を用いる相対航法(MMN※6)を開始。4月17日にデブリの後方数百mに接近、さらにデブリ後方約50mへの接近とデブリの定点観測にも成功した。
※6 MMN:Model Matching Navigationの略称。デブリの形や姿勢の情報を用いる相対航法
商業デブリ除去実証について
アストロスケールは、大型デブリ除去等の技術実証を目指す宇宙航空研究開発機構(JAXA)の商業デブリ除去実証フェーズIの契約相手方として選定、契約を受けて、ADRAS-Jを開発した。
商業デブリ除去実証は、深刻化するデブリ問題を改善するデブリ除去技術の獲得と、日本企業の商業的活躍の後押しの二つを目的とする JAXAの新しい取り組みだ。
この枠組みに基づき、本事業はJAXAから技術アドバイス・試験設備供用・研究成果知財提供を受けて実施されている。
関連情報
https://astroscale.com/ja/
構成/清水眞希