日本百貨店協会の発表によると、全国百貨店売上高は、 2021年から昨年まで3年連続で増加を記録。しかし、1990年代前半のピーク時の売上高に比べると、いまだ約5割しか回復していない現状だ。マーケティング、流通論などが専門の青山学院大学・宮副謙司教授はこう語る。
「ネットショップやショッピングセンターでの消費行動が根づく中で、百貨店は品揃えの総合性だけでは勝負できない時代に突入しています。仙台の『藤崎百貨店』は、売り上げが見込める婦人雑貨を7階に移動してシャワー効果を狙うなど、各社とも策を講じています」
売り場構成の変革のほかにも、これまでにない施策を行なう百貨店も。『松坂屋 静岡店』は、本館7階に百貨店併設としては初となる水族館『スマートアクアリウム静岡』をオープンして話題に。
『阪急うめだ本店』は、25歳以下の次世代顧客を獲得すべく、Z世代の社員が企画から商品選定、運営までを行なう『Something Good Studio』を展開。韓国ブランドや次世代クリエイターを集積した企画などが好評で、同スペースでの次世代顧客数は、約1.5倍を記録した。
広島県・広島市の『福屋』は、埼玉県川越市の『丸広百貨店』とコラボ。相互で物産展を開催し、地域密着型百貨店ならではの品揃えで好評を得た。
消費行動の多様化により、百貨店側にとっては、ただ商品を売るだけではない付加価値が必要とされる時代。今後もどんな秘策が展開されるか注目したい。
非日常体験がかなう百貨店内水族館
松坂屋 静岡店×水族館
2022年に、都市型水族館「スマートアクアリウム静岡」を本館7階に誘致。「従来の百貨店の上層階には見られなかった世代の来館にもつながっています」(松坂屋静岡店 広報・木庭英之さん)。また、来館者が入場料を決める新しい制度も導入。
静岡を代表する景勝地・三保の松原をイメージした水槽が入り口に。県民に愛される演出だ。
若手社員主体でZ世代を呼び込む
阪急うめだ本店×Z世代
「未来の顧客を創造する」ことを目的に、2021年4月にオープンした『Something Good Studio』。若手社員が中心となり運営を行なう。「D2Cブランドを強化するなど、次世代顧客に支持されるコンテンツで認知度を上げています」(阪急うめだ本店 宣伝広報・廣内有里枝さん)
Z世代の人気ブランドによるポップアップやバレンタイン企画が好評。
地域密着型百貨店の強みをアピール
福屋(広島県)×丸広百貨店(埼玉県)
お互いに「ご当地フェア」を出店し合うことで、地域商品の調達力や編集力を発揮し、相互の販路拡大を図る。「『実は埼玉に昔住んでいて懐かしい商品に出会えた』『オンラインでしか買えない商品が選べて楽しかった』など、多くの反響をいただきました」(福屋 広報・横山慧さん)
広島ご当地フェア「丸広百貨店」の様子。広島で人気の「炭焼きの焼き豚 もりせん」の商品も!
さいたまご当地フェア「福屋」では「川越だるま」ほか、食料品も充実。
取材・文/坂本祥子