2024年4月末から5月にかけての円安局面の中、財務省による為替介入に関するニュースが、さまざまなメディアで連日報道された。
この為替介入の正式名称は「外国為替平衡操作」であり、実務は日本銀行が財務大臣の代理人として、その指示と関係法令に基づいて遂行することになっている(参考/日本銀行HP https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/intl/g19.htm)。
そんな為替介入の原資に関して、三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川 雅浩氏によるリポートが届いたので、その概要をお伝えする。
財務省が発表した外貨準備残高の増減から直近実施されたドル売り・円買い介入の原資を探る
財務省は6月7日、5月末時点における「外貨準備等の状況」を発表した。財務省はこれに先立ち、5月31日に外国為替平衡操作の実施状況を発表しており、4月26日から5月29日までの外国為替平衡操作額は9兆7885億円だったことを明らかにした。
なお、為替介入の原資には、財務省所管の「外国為替資金特別会計(外為特会)」の資金が用いられ、外為特会の外貨は外貨準備に計上されている。
直近では、日本時間の4月29日午後と5月2日早朝に、ドル売り・円買い介入が行われたとみられているが、その際の介入原資は、月次ベースで公表される速報性の高い外貨準備の内容を検証することによって確認できる。
具体的には、4月29日分であれば3月末と4月末の外貨準備残高を、5月2日分であれば4月末と5月末の外貨準備残高をそれぞれ比較し、残高変化の大きい項目が、介入原資と推測される。
■4月末の証券残高は3月末から169億ドル減、4月29日とみられる介入は米国債売却で実施か
外貨準備で介入原資となりうるのは、「外貨」のうち、米国債をはじめとする外国債券などの「証券」と、海外の中央銀行や国際決済銀行(BIS)などへ預け入れる「預金」だ。
ドル建ての預金は、そのままドル売り原資として使えますが、証券に計上される米国債を原資とする場合、いったん市場で売却し、現金化しなくてはならない。介入には米当局の理解が必要ですが、米国債の売却を伴う場合は、相対的にハードルが高いと考えられている。
そこで、まず3月末と4月末の外貨準備残高について、項目毎の残高変化をみると(図表1)、証券の残高が約169億ドル減少しており、これが外貨準備残高減少の主因となっている。
そのため、日本時間の4月29日午後に実施されたとみられるドル売り・円買い介入は(4~6月期の実施日と日次の介入実績は8月上旬に公表予定)、米国債を売却する形で実施された可能性が高いと考えられる。
■5月2日も米国債売却で実施とみられ介入資金は十分用意可能との財務省の強いメッセージに
次に、4月末と5月末の外貨準備残高では、証券の残高が約504億ドル減少し(図表2)、外貨準備残高減少の主因となっており、日本時間の5月2日早朝に実施されたとみられるドル売り・円買い介入は、引き続き米国債の売却を伴ったと推測される。
なお、4月と5月の証券減少額を、それぞれ介入直前のドル円レートで円換算して合計すると、約10兆6380億円となり、前述の外国為替平衡操作額9兆7885億円を十分カバーしている。
なお、前回は2022年9月22日と10月21日、24日にドル売り・円買い介入が実施されたが、この時も今回同様、外貨準備のうち証券の残高が大きく減少。米国債を売却する形で介入が実施されたと考えられている。
このような外貨準備の残高変化をみると、為替介入が必要な場合は、米国債を売却する形で十分なドル資金を用意できるという、財務省からの強いメッセージを感じ取れる。
構成/清水眞希