フェラーリ・ジャパンは、2024年5月3日にアメリカのマイアミで発表された「12Clindri(ドーディチ・チリンドリ)」が早くも日本に上陸したことを発表した。これに伴い、「Ferrari12Cilindri Japan Premiere」を東京都内にて6月11日から3日間にわたり開催し、国内で初披露を行なった。
1947年の創業以来、跳ね馬のエンスージアストが胸を高鳴らせてきたモチーフ、ミッドフロントに搭載された自然吸気V12は、マラネッロのファクトリーのゲートから雄叫びと共に最初に世に出たフェラーリ・エンジン。日本においても、V12モデルは275GTBが1960年代にフェラーリの黄金時代を代表するクルマとして初めて正規輸入された歴史がある。
この12チリンドリは、フェラーリが妥協なく追求するパワートレイン哲学の自然な進化形であり、その哲学は、同社の中核を成す価値観を忠実に守りながら、数十年にわたって絶え間ない進化を続けてきた。今回のイベントでは、フェラーリのDNAを熟知する目の肥えた顧客のために、マラネッロより、ヘッド・オブ・プロダクトマーケティングのエマヌエレ・カランド氏がこの特別なモデルの魅力をさらに深く伝えるために来日した。
12チリンドリは、1950~60年代の伝説的グランド・ツアラーをインスピレーションとし、エレガンスと汎用性、パフォーマンスを共存させて、V12をフロントに搭載するフェラーリ2シーターに課せられた使命を体現している。この血統の最新の進化形として、唯一無二のレガシーを受け継ぐと共に、パフォーマンス、快適性、デザインの基準を新たな高みへと押し上げたモデル。
そのシルエットには、スポーティーさと品格が宿る。シンプルでありながら調和したラインの中に可動空カデバイスを融合させて、比類ないパフォーマンスを保証。エンジンベイの眺めを堪能できるようボンネットはフロントヒンジとし、今やフェラーリ12気筒モデルの象徴となっている2組のツイン・テールパイプを備えている。
そのエンジンは、マラネッロの伝説の礎となった名高いV12の最新進化版となる。このバージョンでは最高出力が830PSに達し、最高回転数は驚異の9500rpmに引き上げられた。目を見張るパワーカーブによって、最大トルクの80%をわずか2500rpmから発揮。その結果、最高のスロットル・レスポンスを生み出す瞬時のピックアップと、レッドゾーンまでパワーが無尽蔵に湧き上がる感覚が実現した。
そしてコックピットでは、長距離のドライブであっても、ドライバーにもパッセンジャーにも優れた快適性が約束されている。ガラスルーフと一流の素材が広々とした空間と開放感をさらに高め、ディスプレイは中央とドライバー用に加えて、3つ目をパッセンジャーの前に備える。
自然吸気V12の新バージョンとなるF140HDエンジン
12チリンドリに搭載するF140HDエンジンは、フェラーリの魂を最も純粋に表現した名高い自然吸気V12の新バージョンとなる。その比類ないパフォーマンスと力強いサウンド、孤高の存在感は、フェラーリの歴史に名を残す伝説的ベルリネッタ・スポーツカーの後継モデルにふさわしいもの。エンジンの最高出力は830PSに上り、難易度の高い革新的ソリューションを採用して、最高回転数が9500rpmに引き上げられた。
改良されたコンポーネントやソフトウェアは、一部が既にスペシャル・シリーズの812 Competizioneに採用されており、同カテゴリートップのパフォーマンスを実現。V12の最高回転数をここまで引き上げるために、エンジニアはエンジン・コンポーネントの重量と慣性の削減に取り組んだ。チタン製コンロッドの採用によって、同じ機械抵抗を持つスチール製より回転質量が40%低減している。ピストンは、従来とは異なるアルミニウム合金を使うことで軽量化し、さらなる重量削減のため、リバランスを施した3%軽量なクランクシャフトが採用された。
そしてスライディング・フィンガーフォロワー式のバルブトレインは、F1におけるフェラーリの比類ない経験から生まれた。加えて、重量削減と、さらなるハイパフォーマンスを実現するバルブ・プロフィールが可能となるように、V12に合わせた特別な開発が施されている。スライディング・フィンガーフォロワーは、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)コーティングを施したスチール製で、油圧式タペットを回転軸として使い、カムの動きをバルブに伝える。このDLCの採用で、重要な接点の摩擦係数が下がり、エンジンの機械効率が大幅に高まった。
ほとんどの改良点は、あらゆる作動状況でトルクデリバリーを最適化することに集中した。その結果、痛快なまでに滑らかでシームレスなレスポンスを誇り、レッドゾーンで最高出力を発揮するエンジンが完成した。
またマニホールドとプレナムチャンバーのレイアウトは非常にコンパクトになった。経路の短縮とカムプロフィールの最適化によって、高回転域でもパワーが解き放たれる。一方、トルクカーブはすべての回転域で最適化された。これに貢献したのが可変ジオメトリー吸気ダクトのシステムで、吸気ダクトの長さを絶え間なく変化させて、シリンダーへの動的な充填を最大化する。
さらに、自然吸気エンジンでは史上初の革新的なソフトウェア・ストラテジーが開発され、選択したギアの機能として、利用可能な最大トルクを変更できるようになった。その効果で、ドライバーはギアを上げるにつれてピックアップがスムーズかつリニアに変化するのを感じられる。これもまた、12チリンドリの走りの興奮をユニークなものとしている重要な要素となる。
終わることのない加速とパワーデリバリーのクレッシェンドは、すべてのフェラーリV12の代名詞となる。今回新たに、革新的なアスピレーテッド・トルク・シェイピング (ATS)によって、マラネッロのエンジニアは3速と4速ギアのトルクカーブを成形することに成功。ここで使われる洗練された電子制は、加速に影響を与えずにトルクの感覚を向上させ、ドライビング・プレジャーを高める。また、新たなギア比の導入も、さらに高いレベルの加速の維持につながり、エンジニアが自然吸気エンジンの新しいトルクカーブを作り上げることに貢献した。
またフェラーリV12ならではのドライビングの高揚感を融合させる上で、不可欠なのがエンジンサウンドとなる。その実現を目指して、吸排気ダクトのあらゆる要素が最適化された。排気ダクトは、各バンク6-in-1の等長マニホールドとし、中央部に革新的設計を取り入れた。その結果、フェラーリならではの V12の咆哮が実現している。
加えて吸気と排気のシステムがそれぞれに放つ高周波音と低周波音を完璧に調整して融合させたことで、エンジンサウンドの音質も向上した。ダクトの形状やサイレンサー・バッフル内部の流体力学は、背圧を最小限に抑え、パワーデリバリーの向上に貢献するように設計されている。排気システムの形状やカーブといったジオメトリーも完璧に磨き上げられ、リミッターまでの全回転域で、フェラーリの特徴的サウンドが極めて純粋な音色で響くことが保証されている。
懐古趣味とは一線を画すエクステリアデザイン
今回フラヴィオ・マンゾーニとフェラーリ・スタイリング・センターのデザインチームは、12チリンドリで、従来のフェラーリのミッドフロント・エンジン V12モデルのスタイリングルールを大胆に書き換えることを目指した。例えば812 Competizioneを特徴づけたような造形的要素からは明らかに離れ、代わりに、さらに洗練された要素を駆使しつつ、スタイリングの統一感に必要なデザインの厳格さは残している。
エクステリアデザインは、クリーンなラインで構成され、それが各部のフォルムを強調して、全体をシームレスにつないでいる。サイドボディは非常にすっきりとしており、テールまで流れるように続く。フェラーリならではの官能性は残しつつ、フェンダーは究極の幾何学的精度で造形された。すべてのラインは、フォルムとフォルムが交差した結果となる。
また、より機能的なアプローチで形を捉え、懐古趣味とは一線を画している。リア・フェンダーはたくましく力強い印象だが、同時に完璧にコントロールされた造形。フロント・フェンダーでは、そうしたたくましい緊張感が少し拡大され、サイドボディに沿って消えていき、ボディの一体感をさらに強めている。
そしてボンネットは極めて流麗な造形で、フロント・フェンダーと一体化している。フェンダーとのカットラインを排除したことで、たくましいデザインに、滑らかに連続する面の印象が加わり、ボンネット全体に極めてクリーンな流れが生まれている。これをさえぎるのは、エンジンベイを冷却する2箇所の排気口。
12チリンドリでは、車の世界とは関係の薄いデザイン要素を模索することも目標の1つだった。そのため、フロントの特徴的要素がいくつか消えている。例えばヘッドライトの細長いフォルムや伝統的なグリル形状の代わりに、このモデルに元々備わる幾何学的形状や交差が生かされた。ヘッドライトは、巻きついた1本の帯の中に組み込まれ、そこからDRLがブレード状に現れる。
同様のアプローチはリアのアーキテクチャーにも採用された。ここでも厳格さを中心テーマとして、ボリュームを引き算することで形を生み出している。フロントと調和するように、テールライトも、リア全体を横切るくぼんだブレードの中に埋め込まれており、おそらくこれが12チリンドリ最大の特徴的テーマといえるだろう。フェラーリ・スタイリング・センターのデザイナーたちは、ここでも巧みな手腕を見せて、技術的・機能的な要請と美を融合させている。
さらにデザイナーはリア・スポイラーの代わりに、リア・スクリーンと一体化した2個の可動フラップを採用して、特徴的な三角形のテーマを作り出した。全体としてすべてがシームレスにつながった印象で、まさに最先端技術を体現している。このコンセプトの開発によって、デザイナーは12チリンドリのキャビンに新たな手法を取り入れることができた。ボディカラーのフレーム表面をトレースして、リア・スクリーンのテーマと共鳴させ、黒いスクリーンを特徴とするキャビンの残りの部分に有機的に溶け込ませている。
またテール部分も、非常にクリーンで一体感のあるフォルムで、ボディカラーがあしらわれている。さらに下の黒かカーボン・ファイバーの部分では、ディフューザーのフィンが際立ち、ボディがその上に浮かんでいるように見える。この部分には、センサー類と2組のツイン・テールパイプも組み込まれている。テールパイプは合計4本で構成され、やはりまったく新しい形状で、金属製サラウンドによってサイズ感を弱めて、よりコンパクトな印象としている。
【主要諸元】
●パワートレイン
エンジン:V12-65°-ドライサンプ式
総排気量:6496cc
ボア・ストローク:94mm×78mm
最高出力:830PS/9250rpm
最大トルク:678Nm/7250rpm
最高許容回転数:9500rpm
圧縮比:13.5:1
比出力:128PS/L
●サイズ&重量
全長:4733mm
全幅:2176mm
全高:1292mm
ホイールベース:2700mm
フロント・トレッド:1686mm
リア・トレッド:1645mm
乾燥重量:1560kg
乾燥パワーウェイトレシオ:1.88kg/PS
重量配分:48.4%フロント/51.6%リア
燃料タンク容量:92L
トランク容量:270L
●タイヤ&ホイール
フロント:275/35 R21 J10.0
リア:315/35 R21 J11.5
●ブレーキ
フロント:398x223x38mm
リア:360×233×32mm
●トランスミッション&ギアボックス
8速DCT
●パフォーマンス
最高速度:340km/h
0-100km/h:2.9秒
0-200km/h:7.9秒
100-0km/h:31.4m
200-0km/h:122.0m
関連情報:https://www.ferrari.com/ja-JP/magazine/articles/12cilindri-born-to-thrill
構成/土屋嘉久