■連載/阿部純子のトレンド探検隊
進化を続ける「ビートウォッシュ」の軌跡
2004年に発売を開始し今年20周年を迎えた、日立のタテ型全自動洗濯機/タテ型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ」。2024年の1月で国内の累計出荷台数1100万台を突破し、タテ型洗濯機として安定した人気を誇るシリーズだ。
初代ビートウォッシュの商品企画を担当していた、マーケティング本部 コミュニケーションデザイン部 森川祐介氏がビートウォッシュ開発の軌跡を語った。
「20年前は今では当たり前の共働き、エコの意識が始まりだした時代。家電業界も様々な新しい商品の開発が始まっていまして、テレビでは1インチ1万円を切るようになり、プラズマか液晶テレビかと言われていた時代です。
洗濯機でも様々な新しい技術が登場し、今ではあたり前のステンレス洗濯槽、お湯取り物語(お湯で洗濯をする機能)も日立が初めて開発して、“洗浄の日立”という自負が生まれたきっかけになりました。
2004年当時はドラム式洗濯機が日立以外のメーカーからどんどん発売されていました。日立としてもドラム式を追うのか、それとも違うものを追うのか、2000年を超えた時期から、社内で議論されていました。
我々が選んだのは他メーカーの後を追うドラム式ではなく、日本に根付いた洗濯機を開発したいと第3の方式を考えることになりました。ドラム式の節水性能の高さ、タテ型の洗浄力の高さと短時間で洗濯できる、双方の利点を兼ね備えた、洗浄力・節水力・乾燥力、この3つを合わせ持つ最高の洗濯乾燥機の開発を開始しました」(森川氏)
こうして2年以上かけて開発したのがビートウォッシュ。誕生のターニングポイントになったのは洗濯槽底面の回転羽根の形状だった。(下記画像左が森川氏)
「この羽根を開発したのは乾燥を担当するチームです。乾燥時にドラム式洗濯機は、衣類を上から下に落として広げていくのでシワが伸びやすいのですが、タテ型の乾燥機は、重力で衣類がなかなか持ち上がらないのが弱点でした。
スロープを回転するときに、衣類を舞い上げ反転させて入れ替える羽根を乾燥チームが考案。洗浄を担当するチームが、この羽根をつけて洗浄試験を実施しました。
その結果、水が少ない状態で羽根の上で洗濯工程を始めると、衣類が浮かずに羽根に乗った形になり、押してたたいて揉み洗うというような動きになりました。今までに見たことのないようなゴシゴシと手を洗っているような動きで面白いと思ったんです。
しかし、これで洗浄力が出るのかということが課題となり、洗浄試験をしてみたところ、人間が手で揉んでいるのと同じような機械力が伝わり、従来よりも洗浄力が上がったのです」(森川氏)
こうして誕生したのが、うずまき式でもなくドラム式でもない、「ビート式」を搭載したビートウォッシュだ。
その後もインバーターモーターや、洗濯羽根、パネル、デザインなど改良を重ね続け、洗浄力、使いやすさ、デザインの思想は20年後の現在も引き継がれている。
「初代の機種から核となっている開発思想は“家事からの解放”です。洗濯機に限らず、家事はできるだけ機械に任せて、家事に取られていた時間を別のことに使っていただき、みなさまの生活のQOLを高めていただきたいという想いで取り組んでいます。そのために我々が行っているのが、お客様の声に真摯に耳を傾け開発に反映させることです。
今では各社がステンレス槽になっていますが、日立が最初にステンレス槽を作った理由は、きれいに脱水できるからでした。当時のプラスチック槽は、脱水の時に回転数が800回転ぐらいしか上がらず残水がありました。水分を多く含んだ衣類は、外に干してもなかなか乾かなかったのです。
1100回転させるために開発したのがステンレス槽で、プラスチック槽と比較すると牛乳瓶3本分ぐらいの水が脱水できました。外干しすると早く乾くということで当時ヒットして各社が追従したのです。
しかし、回転数が早くなり脱水機能は上がりましたが、洗濯槽に衣類がはりついて取りにくいというお声をいただきました。脱水時にはりついた衣類を落とすにはどうしたらよいか。
当時、洗濯乾燥機がタテ型で登場し始めて、乾燥工程に行く時に洗濯羽根を小刻みに動かすことではりついた衣類を落とす技術がありました。この技術を洗濯機にも使えば洗濯の時にはりついた脱水の衣類をほぐすことができるのではないかと開発したのが『ほぐし脱水』という機能になります。
地味な機能ですが、ビートウォッシュのユーザーからはとても好評で、今年の新機種にも採用しております。派手なこともやりますが、地道にお客様の声に応えて、良いものをより安くという思想で、研究開発を日夜進めていくのが私たちの開発思想です」(森川氏)