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黎明期から次のステップへ、eスポーツ市場が歩む「100年計画」

2024.06.20

創刊から38年、常に最前線でビジネストレンドを追いかけてきたメディア『DIME』と国内電通グループ約150社で構成される「dentsu Japan」がタッグを組んで、次のトレンドを探求する『DIME Trend Lab』。

第3回では「eスポーツの課題とこれから」をテーマに3人のプロフェッショナルが集結。

ビデオゲームを競技として捉える〝eスポーツ〟は、ここ数年で一気に世の中に広く浸透し、一つの文化として定着しつつある。

それを裏側から支えてきたひとりが、電通のeスポーツ事業部長を務める金原玄樹さんだ。高校生eスポーツ大会『STAGE:0』の立ち上げをはじめ、様々な事業に携わってきた金原さんは、「eスポーツは今後、更に拡大していく」と考えている。

金原さんと共に、eスポーツライターとDIME Gaming監督らが考えるeスポーツの未来、そしていま求められていることについて議論する。

金原玄樹(きんぱらげんき)さん(中央)
株式会社 電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター eスポーツ事業部長
電通入社後、テレビ局に配属。テレビビジネス全般の業務経験を経て、2018年よりコンテンツビジネス・デザイン・センターでeスポーツを担当。一般社団法人日本 eスポーツ連合(JeSU)のマーケティングパートナーをはじめとし、国内最大の eスポーツ甲子園STAGE:0(ステージゼロ)を立ち上げるなど、数々の事業や番組開発、eスポーツを通じて企業における若年層獲得のためのソリューション開発を行う。

千葉康永(左)
『DIME』デスク、DIME Gaming監督
編集者として雑誌・web編集業務に携わる傍ら、趣味で始めたゲームが高じてeスポーツの世界に足を踏み入れる。やがてeスポーツ選手のマネジメントに興味を持ち始め、DIME Gamingを設立。同チームは『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズを中心に活躍するRaitoを選手第一号として迎える。日本eスポーツアワード審査員。

桑元康平(右)
eスポーツライター
1990年、鹿児島県生まれ。プロゲーマー。鹿児島大学大学院で焼酎製造学を専攻。卒業後、大手焼酎メーカー勤務などを経て、2019年5月から2022年8月まで、eスポーツのイベント運営等を行うウェルプレイド・ライゼストに所属。現在はフリーエージェントの「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのプロ選手として活動中。代表作に『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』(小学館新書)。

コロナ禍を経て発展してきた日本のeスポーツ

桑元:金原さんは、まだ日本でeスポーツの市場が未成熟だった2018年初頭から業界に従事されてきました。現在のeスポーツ市場をどう捉えているのでしょうか。

金原:特にコロナ禍以降、eスポーツの盛り上がりは爆発的に伸びているように感じます。やはり在宅時間が増えた影響で、ストリーマーやプロゲーマーの配信に人が集まったのが大きいですね。

千葉:本当にその通りだと思います。ファンだけでなく、プロゲーマーやeスポーツチームの数も増えましたよね。eスポーツチームの監督としても業界の盛り上がりは肌で感じています。

その一方で、有名チームが解散したり経営難に陥ったりする事例は国内外問わず後を絶ちません。私が4〜5年前に抱いた「飯を食えていない選手やチームがある」という課題感は、今も大きく変わっていないように感じます。率直にお伺いしたいのですが、eスポーツ業界はここからさらに発展していくことはできるのでしょうか。

「飯を食えていない選手やチームがある」と現場視点の課題からeスポーツチームの設立を成し遂げた千葉

金原:市場全体を俯瞰してみると、これから更に拡大、発展していくと考えています。

というのも昨年、中国杭州でおこなわれたアジア大会のeスポーツ競技は非常に盛り上がりましたし、サウジアラビアでもワールドカップの開催が計画されています。

また、世界を舞台に活躍する選手も増えていますし、それを応援するファンの数も熱量もとてつもない。

長年、市場の拡大に貢献をしてきた金原氏

桑元:日本のeスポーツファン熱量は本当にすごいですよね。2022年には、FPSゲーム『VALORANT』の国内向け公式YouTubeチャンネルにおいて、総視聴時間数が海外のメインチャンネルのおよそ86%を達成したというデータがあります。市場全体の拡大に加えて、世界的に見ても数、熱量ともにトップクラスといえるファンの存在は大きなプラスの要素といえるかもしれませんね。

ゲームタイトル=ひとつの競技、それぞれのパブリッシャーをサポートすることも大切になってきている

千葉:ちなみにお伺いしたいんですが、金原さんはeスポーツを一つの文化として確立するのに何年計画で考えているんですか?

金原:100年計画です。

桑元:100年! そんなに長期なんですね!

金原:正確には、文化を作るのに100年かけていくというよりは、今ある文化を多くの人に理解してもらって、新しい市場を作っていくためには、そのぐらいの長期的な視座が必要だと考えています。電通という会社の社会的役割のひとつは、多くの企業の方々と新たな価値共創を行い、貢献していくことだと考えています。eスポーツ領域でも、そのような志で取り組んでいます。

千葉:確かに、サッカーもJリーグが設立されて数十年でようやく今の段階ですし、時間はかかるのかも。eスポーツ部門を立ち上げた際はどういった計画だったのでしょう。

金原:市場発展のためには、幅広い世代にeスポーツの面白さや魅力を伝え、競技人口を増やすこと、社会的に認められることが必要だと考えました。

足がかりとなったのが「プロ野球を見ない人でも甲子園なら見る」という日本ならではの文化です。そこから着想を得て、eスポーツ版甲子園といえる全国大会『STAGE:0』というeスポーツを愛する学生達が努力し打ち込める舞台を作り、裾野の拡大と友達や家族が応援する環境作りを行いました。

桑元:『STAGE:0』は今年で6年目ですが、出場者数も毎年増えていますし、学生にとっての目指すべき場所になっているように感じます。

eスポーツ市場を誰よりも鋭く、客観的に分析する桑元

金原:それらの取り組みは成果を上げられていると感じています。

千葉:一方で、パブリッシャーも大会やイベントなどで自社タイトルを積極的に盛り上げており、その勢いは年々増しています。eスポーツ市場の形成という観点からいえば、パブリッシャーの取り組みも当然、大きな意味を持ちますよね。

金原:eスポーツにおいて、フィジカルスポーツでいう競技にあたるのがゲームタイトルです。そしてゲームタイトルを企画・運営するパブリッシャーは、まさに世界そのものを作っていると言っても過言ではありませんからね。

我々としても、すでにeスポーツを視野に入れているパブリッシャーはもちろんのこと、そうでないパブリッシャーであっても、彼らが考える理想の世界をeスポーツという側面から手助けしていきたい。そういった活動もeスポーツを盛り上げる一つの大きな軸だと考えています。

桑元:それが2023年5月からライアットゲームズと締結した戦略パートナーシップのことでしょうか?

金原:はい、それはそのひとつです。ライアットゲームズが素晴らしいと思うのは、クオリティの高いゲームを作ると同時にeスポーツならではのエコシステム、コミュニティをデザインしようとしているところです。ファンを一番大事にして、ファンが求めているものを提供している。ファンがそこにお金を投じてくれて、選手やチームに還元される、それにより競技力が上がっていきファンが見たいものの価値が高まっていく、という仕組みが成り立っています。参考にできる部分が数多くあると考えています。

求められるのはヒーローの誕生

千葉:最近eスポーツカフェがリニューアルしたり新しく開店していたりと、観戦して盛り上がろうというビジネスが増えている印象です。あとはどのゲーミングチームもアパレルやグッズを展開しているなと。

先ほどの話に少し戻るのですが、プレーヤーやチームが生き残るためにはやはり本業のゲームプレイ以外の部分、ファンビジネスに注力しないとこの先生き残れないのかなとも思うのですが、金原さんはどうお考えでしょうか?

チーム運営の課題は業界全体の課題でもある

金原:僕はチーム運営をしていないので、その観点から語るのは難しいですが……スポンサーの目線でいうと、eスポーツの最大の魅力は若く熱量の高いファンが多くいることです。

若年層獲得に課題を持つ多くの企業は、そこにマーケティングとしての価値を見出しています。ですので、ファンの熱量が最大化する瞬間をいかに作れるかが企業にとってのチームの魅力になるのではないでしょうか。

千葉さんの言う通りいくつも手段があるのは間違いありませんが、そのなかで特に重要だと考えているのは、世界を相手に戦えるチームを作ることです。

国内eスポーツのレベルは確実に向上しており、その結果、競技やそれを取り巻くファンコミュニティも世界基準で語られることが多くなりました。勝利というものの価値は今まで以上に高まってきています。

桑元:スポーツの醍醐味って、勝利する瞬間の熱量ですもんね。

金原:その瞬間に沸き起こる熱狂がもたらす価値は凄まじい。それを夢見て、スポンサーは支援してくれるわけですから。ただ、先ほども話した通り、勝利とはチームや選手の魅力を引き上げる手段の一つ。最も効果的なのは間違いありませんが、他にも様々なアプローチがあると思います。

千葉:実際に他のスポーツでも、1位だけが応援されているわけじゃないですから。

金原:ホームタウンを持ち、地域貢献を行うというのも地元の人などに応援される文脈になりえます。

千葉:そういう意味では、野球のようにプロや社会人、学生など様々な部門で複数のリーグがあって、ベストナインのように役割ごとに推せるポイントなど、活躍できる舞台がたくさんあると、色々なチームにスポットライトが当たるかもしれませんね。

桑元:チームや選手など〝個〟として求められることは今おっしゃっていただきましたが、市場全体という視点でこれからの更なる発展に求められるのは何でしょうか。

金原:やはりヒーロー、特に若い世代に支持されるアスリートが誕生すると良いなと思っております。どう国民ごととして考えてもらえるかというと、突き抜けたヒーローが生まれることだと思います。

千葉:確かに、大谷翔平さんや藤井聡太さんのような人がいるだけで一気にその競技自体の人気が高まりますもんね。早く生まれてほしいなって思います。

今回、僕は大きく2つの質問をさせていただきました。一つは「これからeスポーツ業界って発展するのか」というマクロな質問。もう一つはミクロな質問で「チームの運営、これからどうすればいいのか」というものでしたが、両方明確に回答を頂けたのかなと。

1つ目のマクロな質問は、これからもっともっと盛り上がるから安心してくれと、心強い言葉を頂けた気がします。ミクロの方に関しては、スポーツビジネスになぞらえるのであれば、勝っているチームが注目されるのは当たり前だけど、やりようはあるという回答だったのかなと。昨今のチームの解散なども市場の成熟に伴い生じるもので、しっかりしたチームや選手はこれからも伸び続けるのかなと思いました。うちの選手とも、競技者の側面とビジネスの側面、それぞれ課題を洗い出して改めて相談してみます。

桑元:競技者目線でいうと、15年ほどゲームを競技としてプレイしてきて、応援してくれる人が本当に増えたと実感していますし、好きでゲームを続けた先にこういう世界が生まれていることは本当にありがたいですね。

それでも今は黎明期で、僕らより下の世代はさらに活躍して光を浴びるようになるかもしれないと考えると、とてもワクワクしますね。その一助として自分たちも貢献できれば幸いです。

金原:皆様のようにeスポーツを本気で考えている方々と、もっと僕らの活動が繋がっていくようにしたいなと再認識できたので、僕自身すごくモチベーションをもらえました。

僕らが成し遂げたいのが、eスポーツを通じて日本を、世の中を元気にすることです。高い競争力の中からヒーローが生まれ、世界に羽ばたいて未来を切り開く。そんな次の世代を担う若者が生まれるような世の中を、eスポーツで作れると僕は信じています。

「まだまだ市場は大きくなる」と金原氏は自信をもって語る

取材・文/桑元康平(すいのこ) 撮影/木村圭司

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