絶品B級グルメ」とか「ソウルフード」と呼ばれるものは日本全国にある。で、みなさんはこう考えたことはないだろうか。「日本各地にあるんだったら世界各地にも当然B級だけど超絶うまいものがあるんじゃないか?」と。
というわけで世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」が、居住国や旅先で出会った「絶品ソウルフード」を大紹介するシリーズ。第2回はオランダから「カプサロン」をお届けする。
「カプサロン(Kapsalon)」とは、オランダ語で「床屋」の意味だ。B級グルメと床屋。意味がわからないかもしれないが、とりあえずこんな料理。
ポテトと肉は間違いない。でもそれで終わりませんよ・・・!
見るからにあふれ出るB級グルメ感
カプサロンとは、アルミ容器に詰められたフライドポテトの上にいろんな食材が乗っているオランダ発のB級グルメ。揚げたてのフライドポテトに、ケバブやショアルマといった中東風のスパイスの利いた焼肉、オランダのゴーダチーズを重ねてオーブンで軽く焼き、最後にたっぷりの野菜とニンニクのきいたマヨネーズソース、ピリッと辛いサンバルソースをかけたものだ。主食に具材がどーんと乗ってる様子は、日本のどんぶりめしにも通じるものがある。実際、お行儀なんぞ気にせずにフォークでわしわしと食べるのがうまい。アルミ容器というチープさもいい。
持ち帰り用に包んでもらったが、やっぱり今食べたくなった。
さてさっそく実食。たっぷり野菜の下に隠れるのは、アツアツで端っこはカリカリ、中はほくほくのフライドポテト。薄切りながらも、ジューシーでうまみたっぷりのケバブ。そこにまろやかだけどあっさりしたニンニクソースがからみ、ハイカロリーとわかっていても食べる手が止まらない。時折感じるサンバルソースの辛味もアクセントだ。
フォークを容器の底まで差し込み、ポテトと肉を一緒に持ち上げてみると、トローッとチーズが伸びる。チーズにからまる野菜と共にばくっとほおばると、全ての味と食感がなだれ込んでくる。あぁ、これは明らかに脳から何らかの快楽物質が出ているなぁ。一口、また一口と食べ進めていくうちに「妙に幸せになってしまう」食べ物なのだ。現に小学5年生の息子は、食べながら「はぁー、カプサロンってなんでこんなにおいしいんだろう……」とため息をついていた。小5男子のうまいものへの感嘆=正義だ。
野菜をかき分けた先には肉、肉、そしてポテト。
ポテト+肉+チーズというのは、絶対うまい鉄板の組み合わせなのは間違いない。そこに2種のソースと数々の野菜というのが、複雑なうまみや食感、味わいの変化を生み出している。時間が経つにつれてしなっとしてくる野菜も一体感を高めてくれて良い。この辺りの変化は、パリパリ麺にあんかけがかかった「長崎皿うどん」に近いと思う。序盤のそれぞれの食感を楽しむフェーズから、全てが混ざり合ったうまさへと変化していくのだ。最初から最後までずっとおいしい。
こんがり炙られたケバブの輝き。これだけでも十分おいしいのが罪深い。
なぜ「床屋」と名がついたのか
さてこのカプサロン、生まれたのは2003年とわりと歴史は浅い。場所はオランダ南部の街ロッテルダム。とある床屋の店主が行きつけのケバブ屋で注文していたオリジナルメニューが発端だ。通常は大皿に盛り付けられる「フライドポテト、肉、サラダ」のワンプレートメニューを、仕事の合間にも食べやすいように1つの容器に重ねて詰めてもらっていた。そのうち床屋から注文の電話が入ると、店員も「あの床屋のやつ!」とオーダーを通すようになり、次第に周りの客も真似をして注文するようになった結果、「カプサロン(床屋)」というのが料理名となってしまった。そして他の店にも広がっていき、今ではカプサロンというオランダ語は「床屋」と「フライドポテト+肉+野菜のおいしいやつ」の2つの意味を持っている。
いい感じの焼き色がついたところで、削られていくケバブ。
カプサロンに使われている具材は、実に多国籍。フライドポテトはもともとオランダやお隣ベルギーのファストフードとして大人気。ケバブはトルコ、ショアルマはレバノンやヨルダンといったいずれも中東や東ヨーロッパ圏の肉料理。ゴーダチーズはいうまでもなくオランダの名産品。そしてサンバルソースは、かつてオランダが植民地としていたインドネシアのホットソースだ。(ちなみにオランダにはインドネシア料理の店も多い。)
さらに考案者である床屋のナタニエル・ゴメスさんは、カーボベルデ共和国という正直私は初めて聞いた国の出身。移民・多国籍文化のオランダを象徴するような「ごちゃまぜうまし」のB級グルメなのだ。