連載/ゴン川野のPC Audio Lab「春のヘッドフォン祭 2024」
Brise Audioの夢のシステムが登場
東京駅直結のステーションコンファレンス東京で開催された「春のヘッドフォン祭 2024」では80社の出展があり、事前申込不要で入場無料ということで、ポータブルオーディオファンで賑わっていた。
ここでは新製品発表会も行われており、前回、試作機を展示したBrise Audioの「FUGAKU」の製品発表があった。Brise Audioはハイエンドカスタムケーブルで知られるメーカーである。同社が作った究極のポータブルオーディオシステムがFUGAKUなのだ。構成はバランス対応のポータブルアンプに専用ケーブルとイヤホンのセットで250万円。価格を度外視して音質を追求した結果生まれた製品で、完成後にコストを計算するとこの価格になってしまったという。
FUGAKUはハイエンドの本命、マルチアンプを採用
スピーカーを使ったハイエンドオーディオの場合、機能を細分化するのが定番である。プリメインアンプからセパレートアンプへ。ステレオパワーアンプからモノラルパワーアンプへ。さらに3Wayスピーカーであれば、ウーハー、ミッドレンジ、ツイーターと帯域ごとに独立したパワーアンプを使うマルチアンプ。スピーカー内蔵のネットワークを使わず、外付けのチャンネルディバイダーを使用する。現在はこれをデジタル化することで、音質劣化なしでドライバーのつながりを非常に細かく設定可能になっている。
Brise Audioはマルチアンプでイヤホンを駆動するというシステムに挑戦している。ただしチャンネルディバイダーはデジタル化せずに帯域ごとにアナログ方式のアクティブフィルターを設けている。なぜ、デジタルを選択しなかった理由を聞いてみると、アナログ方式の方が小型化できるためヘッドホンアンプを小さくできるそうだ。Brise Audioが採用したイヤホンは5Wayなので最低でも5アンプ、5フィルターが必要になり、かなり大規模なシステムになるのだ。実際は5Way8ドライバーでダブルウーハー用のアンプを独立させ6chアンプをLR合計で12chも搭載している。
一般的に帯域分割に使われるフィルターはパッシブ式である。なぜならスピーカーに内蔵するので電源が取れないからだ。イヤホンに内蔵されるのもパッシブ式フィルターとなる。抵抗、コンデンサー、コイルの組み合わせで必要な帯域の信号だけを通す回路を構築する。これはアンプ側からみると余計な負荷になってしまい必要悪と言える。また、イヤホンの場合はスペース的な制約もあり凝った回路や高音質パーツを使うことが困難になる。これをアンプ側に設置すれば音質的に有利なアクティブ式が使えアンプの負荷にもならない。今回のように異なる方式のドライバーが採用された場合も、それぞれに最適化されたアンプが選べるというメリットもある。
音質検討用に試作されたFUGAKUの基板。紫の基板がアクティブフィルターの役割を果たしている
製品化されたFUGAKU。パネルは左側にあるカーボンが採用される
FUGAKUは音質的に有利なアクティブフィルターとマルチアンプを使いイヤホンを駆動する
小型化のために4層基板と8層基板を2階建てで使いヒートシンク兼シールドケースを2階部分に加えている