魚油サプリは諸刃の剣?
魚油サプリメント(以下、魚油サプリ)は、心臓に病気がある人にとってはメリットがあるものの、そうでない人にとってはデメリットとなる可能性を示唆するデータが報告された。中山大学(中国)のHualiang Lin氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Medicine」に5月21日掲載された。同氏は「魚油サプリの効果と副作用には不明な点があり、心血管疾患(CVD)一次予防のための魚油サプリ利用には注意が必要」と述べている。
この研究は、英国の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて行われた。2006~2010年に研究参加登録された40~69歳の地域住民から、CVDや心房細動、がんの既往のある人、データ欠落者などを除外した41万5,737人(平均年齢55.9±8.1歳、女性55%、魚油サプリ利用者31.4%)を2021年3月まで追跡。中央値11.9年の追跡で1万8,367人が心房細動、2万2,636人が主要心血管イベント〔MACE(心筋梗塞、脳卒中、心不全)〕を発症し、2万2,140人が死亡していた。
結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種/民族、喫煙・飲酒習慣、肥満・高血圧・糖尿病・腎臓病・慢性閉塞性肺疾患、血圧・血糖・血清脂質に対する薬物治療、脂肪の多い魚と少ない魚の摂取量など)を調整して解析。その結果、魚油サプリ利用との関係性は、追跡期間中のイベント発生状況によって以下のように異なることが明らかになった。
まず、魚油サプリの利用は、ベースラインの健康な状態から心房細動の発症リスクが13%〔ハザード比(HR)1.13(95%信頼区間1.10~1.17)〕、脳卒中の発症リスクが5%〔HR1.05(同1.00~1.11)〕上昇することと関連していた。それに対して、心房細動を発症後には、魚油サプリの利用がMACEリスクの8%低下と関連しており〔HR0.92(0.87~0.98)〕、また心不全発症後の死亡リスクの9%低下と関連していた〔HR0.91(0.87~0.99)〕。ほかにも、心房細動から心筋梗塞や死亡に至るリスクの低下と魚油サプリ利用との有意な関連が認められた。
米ナショナル・ジューイッシュ・ヘルスのAndrew Freeman氏は、この研究報告に関するCNNの取材に対して、「総合的に判断すると、健康維持のために魚油サプリを誰もが利用すべきと考える時代ではなくなったと言えるのではないか。ただ、すでに疾患を有している人には有用かもしれない」と語っている。
また、米国の神経変性疾患研究機関で研究責任者を務めるRichard Isaacson氏は、「魚油サプリ利用に先立ち、まずオメガ3脂肪酸の濃度を調べるとよい。指先穿刺による採血で測定可能なキットがオンラインで購入できる。その検査でオメガ3脂肪酸濃度が低くなければ、魚油サプリを利用する必要はない」と、CNNに対して語っている。同氏はオメガ3脂肪酸を食物から摂取することを推奨しており、イワシやサケが最良の供給源だとしている。
今回の論文の著者らも、「魚油は心臓や脳の健康に役立つと考えられているオメガ3脂肪酸の豊富な供給源であり、サケなどの脂肪分の多い魚を少なくとも週に1回食べるか、CVDリスクの高い人は魚油サプリを使用することが推奨されている」と、研究背景の中で述べている。また、明らかになった結果に関してはジャーナル発のリリースの中で、「魚油サプリが心疾患のある人には有用で、心疾患のない人には役立たないという違いの理由を解明するには、さらなる研究が必要とされる」と記している。(HealthDay News 2024年5月22日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://bmjmedicine.bmj.com/content/3/1/e000451
Press Release
https://www.bmj.com/company/newsroom/regular-fish-oil-supplement-use-might-boost-first-time-heart-disease-and-stroke-risk/
構成/DIME編集部