窃盗犯は「常に合理的」
さて、ここからがこの記事の主題、そして最も重大な部分である。
窃盗犯は、常に「合理的選択理論」に沿って行動する。窃盗とはそれをやる者が合理的・理性的に考えることが大半で、感情的・衝動的にやってしまうことが殆どの暴行や殺人とはそのあたりで色合いが異なる。
この部分を読んで、意外に感じる読者もいるかもしれない。
しかし、「自分が捕まらないように合理的に判断しながら他人を殺害する」という行為は極めて難しい。
アガサ・クリスティーの推理小説に出てくる犯人は、冷静かつ短時間で計画的に殺人を犯すことができ、それでいてポワロやミス・マープルの前では「無害な善人」のように振る舞える者ばかりである。感情の欠如と恐るべきIQが両立していなければ、そもそも計画殺人などできない。従って、殺人事件の大半は「カッとなってやってしまった」ものなのだ。
それに比べると、窃盗は合理的に事を進めるためのハードルがかなり低い。
「犯罪者は報酬労力リスクを考えて、合理的に判断します。金品を得たいからこそ、“金品があり、人がいない”場所を選択します。そして捕まりたくないので、“入りやすく、逃げやすい”場所を選ぶのです」(山田氏)
「くいとめ」と「みまもり」を組み合わせる
それらを鑑みた時、ハードとソフトの両面から考慮した「防犯環境設計」が必要になるという。
窓の高さや強度で侵入を食い止めるハードは「くいとめ」、周辺住民の目に留まりやすい設計にするソフトは「みまもり」と呼称される。この「くいとめ」と「みまもり」を組み合わせ、その上で警察や警備会社の現場急行を意味する「かけつけ」があれば、戸建て住宅の防御力も高くなる。
「窓や錠を強化する“くいとめ”は、いたちごっこの側面があります。新しい方法が登場した時はいいのですが、次第に研究されてしまいます。それに比べると、近隣の方や通行者の目に留まりやすくする“みまもり”はいつまでも効果を発揮します」(山田氏)
そこで、ヘーベルハウスは「3つのディフェンス」を提案している。家の奥に近づけさせない「ゾーンディフェンス」、開口部を強化することで「みまもり」を引き出す「ハードディフェンス」、留守に見せない工夫を施す「ソフトディフェンス」である。
自転車でも効果抜群!
以下、ゾーンディフェンスについて解説しよう。
効果的なのが、建物側面にフェンスなどの仕切りを設けることだ。このフェンスを侵入犯が乗り越えようとすると、どうしても道路上の歩行者の目についてしまう。そうした「みまもり」を引き出す効果も生み出せるのだ。
フェンスの設置工事をしなくても、自転車や簡単な仕切り板を置くことでも同様の効果が見込める。ディフェンスラインを設けることで、「ここに人が入ったら不自然」と周囲に思わせる景色を作り出してしまうのだ。もちろん、常に合理的に判断している侵入犯はディフェンスラインに置かれた自転車を目視しただけで諦めてしまうだろう。
第2回は、上述した「なぜ中部地方だけ正面突破の侵入被害が多いのか」を解説していきたい。
取材・文/澤田真一