「窃盗犯は、常に合理的に考える」。
そう書くと、反論されてしまうだろうか。しかし、データを見れば見るほど一般家庭を狙う家宅侵入犯は「どうすれば合理的に金品を窃盗できるのか」に思考を割いていることが分かるのだ。言い換えれば、犯人が「この家は合理的に考えて、労力に見合わないほどの堅牢な対策を施している」と考えれば侵入を諦めるだろう。
つまり、自宅の防犯対策とは犯人との「知恵比べ」である。今回は犯人を諦めさせる防犯対策について、旭化成ホームズ株式会社 LONGLIFE総合研究所 主任研究員で一級建築士の資格を持つ山田恭司氏、同社顧問の松本吉彦氏に話を伺った。
非常に興味深い話がいくつもあったので、全3回に分けてその様子をお伝えしたい。
室内での犯罪、「侵入窃盗」は2位
旭化成ホームズ、巷では「ヘーベルハウス」という名称がより一般的か。このヘーベルハウスが15年に及ぶ家宅侵入被害の調査を行い、此度の取材でも、その結果を公表した。
その前に、まずは警察庁が集計したデータを見ていきたい。
2022年の警察庁の統計資料から「住宅で起きた犯罪の年間の認知件数」を見ると、主に屋内で起こった犯罪の1位が「詐欺(2万3,603件)」、2位が「侵入窃盗(1万5,593件)」だ。強盗は200件、強盗殺人はそのうちの7件に過ぎない。
強盗殺人は、珍しいからこそ大きなニュースになりやすい。しかし、詐欺を除けば最も起こりやすい犯罪は侵入窃盗なのだ。
次に取り上げるデータは「住宅侵入窃盗の認知件数」である。山田氏はこう解説する。
「ピークは2003年の約19万件ですが、そこから国が対策を施し、件数は年々減っていきます。2020年にはパンデミックの巣籠りの影響で、さらに急減しました。しかし、パンデミックが収まってから若干増えたのではということがデータに反映されています」
その上で、近年増加気味の侵入窃盗の「中心地」は戸建て住宅だという。警察庁の令和4年の犯罪統計から「住宅対象侵入窃盗の住宅別構成比」を見ると、共同住宅の侵入被害の比率は減少傾向であることが見て取れる。これはオートロックの普及が影響しているものと思われるが、その分だけ戸建て住宅の侵入被害の比率は若干ではあるが増加傾向を示している。
さらに、「一戸建て住宅の侵入窃盗の手口」を見ると、2022年の戸建て住宅への侵入被害は、その6割以上が留守を狙う「空き巣」だったという。「金品があり、人がいない場所」を狙うということを多くの侵入犯が考えている証拠でもある。
「家の奥」が一番狙われやすい!
では、窃盗犯が戸建て住宅に侵入する際、具体的にどこから入るのか?
これについては、ヘーベルハウスが独自に調査している。結論から書けば、「家の奥」がもっとも狙われやすい。
画像に記載されているデータを見ると、以前より侵入被害自体が減っているとはいえ、道路から見た建物背面が狙われがちという点は変わっていない。その次に多いのが建物の側面奥側である。
ちなみに、このデータには地域別の集計も存在する。何と、中部地方だけは建物背面より建物正面からの侵入が割合として高いという。なぜ、中部地方だけこのような集計結果になっているのか? それについては別の記事にまとめたい。