過剰なグルメ情報で不健康食品のおいしさが強化される
オーストリア・ウィーン大学の研究チームが2024年3月に「Appetite」で発表した研究では、「不健康食品はおいしい」という観念は、おいしい不健康食品に遭遇する機会が多いことで強化されているという仮説を検証している。
ウィーン大学の心理学の学部生114名とボランティア21名が参加した実験では、参加者は新しくオープンしたレストランの料理を試食するという設定で行なわれた。
参加者はランダムに3つのグループに分けられ、このレストランで提供されるメニューの画像を閲覧し、それぞれのメニューの味とヘルシーさを評価した。
最初のグループは主に「おいしい健康食品」を閲覧し、2番目のグループは主に「おいしい不健康食品」を閲覧し、3番目のグループは同数の「おいしい健康食品」と「おいしい不健康食品」を閲覧してそれぞれ評価を行なった。
収集した回答データを分析したところ、参加者は味について「おいしい健康食品」よりも「おいしい不健康食品」のほうを高く評価する確率が高かったのである。
2番目の実験はレストランではなくフードデリバリーの設定で行なわれたのだが、やはり「不健康食品はおいしい」と高評価する傾向が浮き彫りになった。つまり同程度の情報量であっても「美味しい不健康食品」を目にする機会があることで「不健康食品はおいしい」という観念が強化されているのだ。
「重要な点は、不健康な食品が多い食環境は、不健康な食品のほうがおいしいという、おそらく誤った幻想を生み出す可能性があることです。政治家は多くの健康的な食品の選択肢がある食環境を作るべきです」と研究チームのソニア・クンツ氏は心理学系メディア「PsyPost」に話している。
賑やかな繁華街では飲食店選びに目移りしそうになったり、テレビやネットでもファストフードのCMやグルメ情報を頻繁に目にすることになるが、こうした体験を通じて我々の「不健康食品はおいしい」という観念が強まっているとすればなかなか厄介なことである。
郊外の幹線道路沿いでもラーメン店を見かけることは少なくないが、ボリュームたっぷりの人気ラーメン店は都会の街中にも多い。それはやはり街中にグルメ情報が氾濫していることも大いに関係しているのだろう。
したがって目に入るグルメ関連情報を制限することを考慮してみてもよい。まずは目的の無いメディア視聴を減らすことが第一だが、都会を離れて自然の中に身を浸してみるのも良い解決策になりそうだ。
フランスのINSEAD(欧州経営大学院)をはじめとする研究チームが今年4月に「Communications Psychology」で発表した研究では、公園を散歩するなど自然の中で過ごしたり、窓の外の自然の緑を眺めることで、その後により健康的な食事を選ぶようになることが示唆されている。
なるべく緑が多いルートを選んで散歩をしたり、休みの日には郊外を訪れて「道の駅」で地場野菜を買ったり、現地の郷土料理に舌鼓を打ったりするなど「おいしい健康食品」を実際に味わう機会を増やしたいものである。
※研究論文
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195666324000965
※参考記事
https://www.psypost.org/unhealthy-foods-perceived-as-tastier-when-more-plentiful-study-finds/
文/仲田しんじ