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ブリヂストンが「月面探査車用タイヤ」の実証実験を行なっている鳥取砂丘と月の意外な関係

2024.06.05

連載/阿部純子のトレンド探検隊

月面を覆う「レゴリス」と似ている砂質の鳥取砂丘を活用

鳥取県は宇宙産業を創出する取り組みを推進しており、昨年7月に鳥取砂丘月面実証フィールド「ルナテラス」をオープン。鳥取砂丘の西側にある約0.5ヘクタールのスペースに、月面を疑似した実証フィールドを整備。国内外の企業、研究・学術機関による、月面探査などの実証実験を支援している。

月面を想定して利用者が穴を掘ったり山を作ったりできる自由設計ゾーンと、最大傾斜20度の斜面ゾーン、直線の平地ゾーンで構成され、月面探査に係わる実証実験等にフィールドを利用することができる。フィールド利用料は無料で、利用者は原状回復の実費のみ負担となる。

実証実験を行っている企業のひとつがブリヂストンで、同社は「月面探査車用タイヤ」の研究開発を2019年より開始。月面走行ローバ用のタイヤ開発にルナテラスを活用している。

月面は-170℃~120℃と寒暖差が300℃の過酷な温度環境、宇宙放射線の影響、さらには空気のない高真空環境にあることから、地球で使うような空気の入ったゴムのタイヤは使用することができない。

「ゴムタイヤは基本的に空気を充填することで荷重を支えています。大気のない月面の環境においては、空気を保持すること、空気が抜けたときに供給することが極めて難しく、タイヤがパンクしても簡単に交換、修理できないというオペレーション上の問題も存在します。

さらに厄介なことに、月面にはレゴリスという非常に細かい砂と、大小様々な岩に覆われている環境です。そのような環境でタイヤが沈み込んでしまうと、自力では抜け出せないスタック状態に陥ります。

月面探査車でスタックして動けなくなることは、月面でのミッションに非常に大きな影響を及ぼすことになり、有人作業では命に関わる重大な問題が発生してしまいます。

過酷な環境下でも機能するタイヤとしてオール金属製にし、さらに荷重を支える構造では、構造我々の開発技術を活かした次世代タイヤ技術『エアフリー』を採用。また、広い接地面積の確保と摩擦力の向上では、砂漠を歩くラクダの足裏をヒントにした金属フエルトを採用しました」(ブリヂストン タイヤ研究第一部長 弓井慶太氏)

「第1世代」では、骨格構造にはコイルスプリングを採用。砂漠で荷物を悠々と運ぶラクダのふっくらとした足裏から着想を得て、金属製の柔らかいフエルトをタイヤのトレッド部にあたる接地面に配置、月面を覆うレゴリスと呼ばれるきめ細かい砂との間の摩擦力を高め、より優れた走破性を実現した。
(※下記画像左は第1世代のタイヤ、右は基本骨格として採用したスプリング構造、金属不織布、月の模擬砂)

現在開発中の「第2世代」となる新タイヤでは、これまでの研究開発を通じて分かってきた、月面を走るモビリティに求められる厳しい走破性と耐久性に対応するため新たな骨格構造を適用した。

「新構造では、空気充填が要らない次世代タイヤ『エアフリー』で培ってきた技術を活かして新たに薄い金属製スポークを採用し、質量の背反がある中で、より高いレベルでの耐久性と重量のバランスの実現を目指しています。

トレッド部を回転方向に分割することで、岩や砂に覆われ、真空状態、激しい温度変化、放射線にさらされる極限の月面環境下においても、走破性と耐久性の高次元での両立を目指します。

リアル+デジタル技術の進化により、金属製スポークの形状や厚みを構造シミュレーションで最適化することが可能になりました。しなやかに変形しながらも金属製スポークの局所的なひずみを最小化して耐久性を高めつつ、分割したトレッド部により接地面積を大きくしてタイヤを沈み込みにくくすることで、走破性もさらに向上させています」(弓井氏)

タイヤ開発において非常に重要になるのが評価法。評価法は使用状況を再現させることだが、問題は月面環境の再現が地球上では難しいという点だ。

砂上走行特有の接地メカニズムの確認、推定メカニズムで設計した試作品の性能検証、シミュレーションの妥当性検証、これらが実現できたのがルナテラスだった。

「月面走行の試験をするためには砂地と車が必要になります。日本中に砂地はありますが、ルナテラスができる以前は、協力いただけたモトクロス場で柔らかい土や砂を撒いて試験を行っていました。しかし、広さの制約があって車の速度が出せないため、長い距離を走ろうとすると非常に長い時間がかかっていました。

もっと広い場所を探して次を行きついたのが海岸線です。許可を得て実施していましたが、実際に行ってみると海岸はゴミや流木が多く、釣り人も多くいることから試験場としては適切ではなかったのです。条件に見合う試験場を探していたときに出合ったのがルナテラスでした。

こちらでは広大な砂地や安定した砂質により、自由度の高い試験条件での実施が可能になりました。ルナテラスはブリヂストンのリアル×デジタルの開発プロセスにとって不可欠な場所になっています」(ブリヂストン タイヤ研究第一部 弾性接地体開発課長 今誓志氏)

第1、第2世代では月面の環境に対応するため、空気を使わない、オール金属のタイヤというコンセプトは共通している。第2世代で変更されたのは基本骨格で、第1世代のスプリング構造から、第2世代では次世代タイヤ「エアフリー」の技術を活用した“しなやかな変形”の骨格になった。

「金属のタイヤを砂地で使うと、沈み込んでその場で回転してしまい前に行く力が出ないことが考えられます。対策としては地面に接する接地面積を広げる必要があります。

接地面積を広げるためにはタイヤの外形や幅を大きくするのが一番簡単ですが、月面タイヤは月までロケットで運ぶため、1kg=1億円と言われるほど運ぶための費用が膨らみ、ロケットに載せられるサイズなど様々な制約があります。

そこで、接地面積を広げるために、電車の鉄輪のような合体された変形しない車輪ではなく、荷重をかけると下がたわんでリングが変形し、接地面積が広がる弾性のあるタイヤにしました。

タイヤの空気の代わりに金属で支える部分に、第1世代ではスパイラルしているコイルスプリングを使って、昨年もルナテラスで様々な試験をいたしました。

それらの結果なども踏まえて、耐久性や走破性に新たな設計方法を検討、当社の『エアフリー』の知見や技術の活用した第2世代のタイヤを試作・検証するのが、ルナテラスの評価法の主な位置づけになっています。

こちら(下記の動画)はタイヤの性能を上げていくために、実際に砂の上で動かして何が起こっているか、そのメカニズムを解いて設計・変更して、効果があったかを検証する試験です。

月面で我々のタイヤが要求通りの性能を出すことを示すために、完全に再現できなくても、疑似した状況での試験データを論理的に積み重ねて説明する必要があります。また当社では独自のタイヤ予測シミュレーションも開発しており、シミュレーションの妥当性を検証するためにもこの地上試験のデータは非常に重要な位置づけになります」(今氏)

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