radikoが日本独特の音声メディアの進化を生んだ
ニキ 日本の音声メディアの市場は海外と比べるとどんな感じなのでしょうか。
八木 アメリカと比べると小さいです。日本はradikoの人気で、ほかの国とは異なる進化をしていると私は考えています。
ニキ ガラパゴス化ですか……。
八木 トークの内容、時間、放送エリアが限られた音声配信コンテンツのradiko人気から、それにならう配信者が多い。だからラジオ番組の一部を切り取ったような感じのものになる。アメリカなどではポッドキャストの登場でラジオから音声配信へのシフトが一気に進んだ。それによって「時間にとらわれない」「世界中の人が聴取者の対象」という考えで、新たなスタイルのものが作られるようになった。
ニキ 確かに。アメリカの音声メディアは、英語ということもあってポッドキャストへの移行で世界中へ市場が広がりました。日本は日本語という言葉の壁があります。アメリカほど規模が大きくなる可能性は高くないでしょうね。ただ、今後人気コンテンツを作るなら、地元だけを意識するものではなく、全国へ向けた発信を意識することが重要になりそうですね。
今後の課題は音声メディアの収益化
ニキ コンテンツ作りのほかにも、日本の音声メディアの課題はかなりありそうですよね。
八木 収益化の課題があると思います。日本のポッドキャストはCMが少ないですよね。
ニキ 一方で、海外のポッドキャストはCMがたくさん入っている。以前、友達とドライブ中に、自分の好きな番組を友達に聴いてほしくて「これ聴きながら行こう!」って出発したら本編が始まる前に5分間も広告が入って(笑)。
八木 始まる前に入るものは、結構長いのがありますよね。
ニキ それと「ここでCMです!」みたいに入るのではなく。会話の途中で、トークの中で「◯△って、旨いよね」みたいに、気がつかないうちにCMを入れるとか。「あれ?」っていうくらいシームレスなんですよね。
八木 それは番組のホストがCMをしゃべるホストリードと呼ばれるCMですね。番組の文脈を切らさずに商品の告知をするので宣伝効果が高いといわれる広告手法です。海外では人気の配信者に企業が直接CMの依頼をしたり、個人の配信者と企業の間に入る代理店のような会社があって、音声メディアにCMを入れやすい環境となっています。
ニキ 日本の場合は?
八木 最近は、radikoのCMの時間に、その人が聴いているエリアに合わせた企業のCMを機械が自動で判断して流すシステムが構築されるなど、環境が整ってきています。弊社にもエリアに合わせたCMの出稿の話が増えていますが、広告主が配信者に直接アプローチするという習慣がないので、個人の配信者ががんばっても収益につながらないケースが多い。だからポッドキャストで人気の配信者が再生数によって収益が得られるYouTubeへ流出している。
ニキ ラジオ局など大手メディアはともかく、がんばってリスナーを増やした個人の配信者が収益を得られるようにしなければ、日本のポッドキャストはシュリンクしてしまうかもしれませんね。そのシステム作りがこれからの日本の音声メディア活性化への課題といえそうですね。
ラジオよりさらに自由でディープな作品に注目
キニマンス塚本ニキさん
ラジオパーソナリティー、通訳、コメンテーターなど多岐にわたり活躍。この対談で語りきれなかった世界の音声メディア事情については、連載「NIKKIのKINIなる世界」へ!
ニキさんのKINIなるポッドキャスト事情
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取材・文/渡辺雅史 撮影/佐々木和隆(八木太亮)、干川 修(キニマンス塚本ニキ) イラスト/川崎敏郎