■連載/阿部純子のトレンド探検隊
温泉を軸に「地域ならでは」の体験を提供するハイアット初の旅館「吾汝 ATONA」
ハイアット初の温泉旅館ブランド「吾汝 ATONA」が由布、屋久島、箱根の3地域で、2026年以降の開業を目指すと発表された。
新型コロナを経て高水準な体験型の旅行への需要が高まり、観光重視から心身を満たすウェルビーイングな旅=ウェルネスツーリズムへシフトしつつある。
増加する訪日外国人観光客も、旅の目的が多様化して長期滞在も増え、リピーターは有名観光地以外の新しいデスティネーションを求めている傾向にある。
こうしたトレンドの中「旅先でしかできない体験」を旅の目的として、「吾汝 ATONA」は日本の温泉と地域文化に特化したラグジュアリーな温泉旅館として展開する。30~50室程度の小規模施設で運営される予定で、温泉、ダイニング、バー、ウェルネス、文化体験などその土地でしか出会えない特別な体験にこだわる宿を提供する。
ハイアットが温泉旅館ブランドを始める理由について、日本ハイアット 代表取締役/Atona共同代表の坂村政彦氏はこう話す。
「日本は旅行先として世界的に人気が沸騰しており、インバウンドのニーズも日本でしかできないユニークな体験を渇望しています。
従来は京都、東京、大阪と限定された地域が旅の目的地であることが多かったのですが、今の訪日外国人観光客は様々な地方を訪れ、その地方の魅力を楽しんでおり、今よりもっと様々な地域を知りたいという需要が高まっております。
有名観光地のオーバーツーリズムが問題になっており、その観点からも特定の場所だけではなく、日本のあらゆるところに分散させていくことが必要となっています。
『吾汝 ATONA』はこの流れを後押しすべく、旅館という日本の文化と、ハイアットのコンテンポラリーな心地よさを融合させるブランドとして展開いたします」(坂村氏)
「吾汝 ATONA」はハイアットの関連会社と、宿泊施設の企画・開発業務を通じて地域資源の活性化を進める「Kiraku」による合弁事業。同ブランドに特化した旅館の開発、改修案件への積極的な集中投資を行う不動産ファンド「Atona Impact Fund(アトナ・インパクト・ファンド)」を立ち上げ、ハイアット、Kirakuの関連会社と竹中工務店が出資、100億円でファーストクローズした。最終的なファンド総額は200億円規模を目指している。
「観光向け不動産ファンドの傾向として、東京、大阪、京都の不動産を取得、リポジションをして売却活動を行い、高いリターンを狙っていきますが、今回のアトナ・インパクト・ファンドはその真逆で、その土地に行って感じた経験をもとにハイアットとKirakuの合弁会社『Atona』で場所を決めていき、その土地の魅力に合わせてAtonaのDNAを育てて開発や改修を行っていく、長期的な目線で運営するファンドです。
この十数年で訪日外国人観光客は非常に増加しています。政府のビザ緩和政策、国際線航空ネットワークの拡大、空港の設備投資の増強といったことに加え、アジア全体の人口1人当たりのGDPの伸び率がとても高くアジアの旅行客が増えたことも要因としてあります。
日本人のお客様も、コロナ期間中に海外に出られなかったことから、改めて国内の魅力に関心が向くようになりました。
デスティネーションとして海外の評価が非常に高くなってきた日本の旅行では、リピーターが増加しています。温泉を含めて日本全国には土地によって異なる様々な魅力があり、日本のニーズが尽きることはないと考えています。ここに投資するのがアトナ・インパクト・ファンドなのです」(Kiraku 創業者 代表取締役CEO/Atona共同代表 サンドバーグ 弘 ウィリアム氏)
合弁会社「Atona」は、日本各地の旅館運営に携わってきたメンバー、様々な国籍の旅行者が集うラグジュアリーホテルで経験を積み重ねてきたメンバー、日本各地の観光資源を開拓し、地域の人々と協業して地域観光の活性化を実現してきたメンバーなど、それぞれの分野で高いスキルやノウハウを持つプロフェッショナルたちによるマネジメントチームが構成されている。
ブランドディレクターは「日本デザインセンター」の原 研哉氏が担当。建築・デザインは、東京と上海を拠点とする「小大建築事務所」が担う。
Atona 執行役員COOの渡部 賢氏は、約14年間にわたり星野リゾートに在籍し、星野リゾート青森屋総支配人などを経て、星野リゾート全ブランドを統括するオペレーション統括本部長を歴任。その後「ハイアット リージェンシー 大阪」代表取締役としてグローバルホテルブランドの運営に携わった。
「由布、屋久島、箱根の3地域は全く異なる自然環境、文化を持っていますが、共通しているのが、自然と人の生活が調和しながら発展しているという点です。自然と人がひとつとなれる観光資源として、また、心身の治癒の場として温泉は発展してきました。
温泉旅館として私たちは温泉の大切さをしっかりと伝えていきたいと思っており、温泉文化を繋げてきたこの3地域は、私たちAtonaがスタートする上では最も適した地だと捉えています。
箱根を例に挙げると、都心からのアクセスも良く身近な温泉ですが、20種類もの豊富な泉質があるのが特徴です。このように日本にはまだまだ様々な魅力が眠っています。選定を行う際には必ず温泉があることを条件に、3地域にとどまらず今後も引き続き『吾汝 ATONA』にふさわしい場所を選んでいきたいと考えています。
『吾汝 ATONA』のターゲットは世界中を旅する旅慣れた国内外のグローバルトラベラーです。彼らは様々な国や地域を旅しており、多様な文化を肌で感じ楽しんでいます。そんな人々が求めるのは個人のニーズや好みに合った体験やサービスであり、その土地やその瞬間でしか味わうことができない経験です。
細かな気配りやおもてなしなど、運営の観点においてもとても学ぶことが多い日本の旅館のホスピタリティを『吾汝ATONA』で活かし、和の心で世界をもてなす宿を実現したいと考えています」(渡部氏)