「NVC」というコミュニケーション手法をご存じだろうか。「Nonviolent Communication」の略で、日本語では「非暴力コミュニケーション」とも呼ばれる。1970年代にアメリカでマーシャル・B・ローゼンバーグ博士が開発したもので、コミュニケーションを取るときに自分や相手をジャッジせず、共感とつながりを重んじながら、平和なやり取りと関係性を構築していく、という手法だ。NHKの報道記者やJ-waveのナビゲーターの経験をもち、現在はコスタリカ共和国と日本を拠点にNVCや瞑想、呼吸法などの講座を開催している丹羽順子さん、通称kokoさんに、ビジネスパーソンにこそ役立つNVCの活用法を前後編にわたってお届けしよう。
最悪の母娘関係から脱却できたのはNVCのおかげ
相手の言葉や態度にイライラしてしまったり、さらには、相手にネガティブな感情を抱いた自分自身を責めてしまったり。こうした経験は誰にでもあるだろう。自分や他人を傷つけてしまうこれらのシチュエーションは、暴力的なコミュニケーションと言える。そうではなく、理解や思いやりを基調に、人と人との誠実なつながりを生み出していくのがNVC、つまり非暴力コミュニケーションだ。
現在、中米のコスタリカ共和国と日本を行き来しながら、NVCのワークショップを開催しているkokoさん。その弾ける笑顔と包容力にあふれた佇まいからはとても想像できないが、かつては娘とのコミュニケーションに苛立つ日々を過ごしていたという。今では17歳になる娘が4歳のとき、kokoさんは海外移住を決断し、パートナーとも離れることに。コスタリカという異国の地で暮らしていくために孤軍奮闘するなか、気づけばすべてのストレスが娘に向かってしまっていた。
「娘に申し訳ないと思いながらも感情をコントロールできず、『そんなこともできないの!?』『またちらかしっぱなし。悪い子ね!』とぶつけてしまう。もちろん、娘は反抗的な態度を取るばかり。私たちの関係は最悪でした」(kokoさん)
どうにかして変えたい、変わりたいともがいていたある日、知人のすすめでNVCを学ぶ2日間の集中講座に参加。学んだことをさっそく娘とのやり取りに活用してみたところ、kokoさんのイライラはすっかり解消し、娘との関係もみるみるうちに改善していった。
「本当に驚いたし、感動しました。NVCは自分にも相手にも共感してつながりを育みながら、対立を平和的に解決していくコミュニケーション方法。4つのプロセスを意識しながら会話を進めていくだけで、自分も相手も悪者にならない、シンプルで優しい本物のつながりが生まれていくんです」(kokoさん)
年齢や立場などを超えた、対等な関係性を目指す
kokoさんが実践しているNVCを用いた会話とは、いったいどういうものなのか。その核となる4つのプロセスを以下にまとめてみた。
(1)観察:判断や評価をせず、起きた事象を客観的に捉える
(2)感情:生じた感情をありのままに感じて認める
(私は〇〇と感じている、あなたは〇〇と感じている)
(3)ニーズ:大切にしたいことや今満たされていないことを明確にする
(私には〇〇が必要、あなたには〇〇が必要)
(4)リクエスト:ニーズをかなえるために相手にお願いしたいことを伝え、相手の気持ちを聞く
(私は〇〇してほしいんだけど、どう思う? 〇〇してくれる?)
「たとえば、親が子どもをしつけるとき、親子関係は『親の考え方に子どもが従うのは当たり前』とする『パワーオーバー(支配的な力関係)』になりがちです。一方、NVCでは『パワーウィズ(対等な力関係)』、つまり、年齢や立場に関係なく、みんなが等しく持っている命の力に寄り添おうとする新しい関係性を大切にします」(kokoさん)