ゴン川野のPC Audio Lab「100Vと220Vで音がいいのはどっち?」
デスクトップ用ヘッドホンアンプが突然故障!
デスクトップで使っていたヘッドホンアンプが突然故障して音が出なくなった。AliExpressで購入したので修理依頼に時間が掛かりそうだ。国内の修理専門店だと製品価格より高額な修理費が発生。それなら、新しいアンプを買った方が早いと理由を付けてアンプ選びを開始した。
デスクトップで使うので、まずサイズに制約あり。高さ制限はないが幅は22cm以内、奥行きは18cm以内でないと収まらない。4.4mmバランス接続対応で、RCA入力のプリアンプ機能も欲しい。パッと思いつくのがTOPPING「A70 Pro」である。それからSHANLING「EM5」もいいのだがアナログ入力がない。
FiiO「K9 Pro ESS」は大きすぎる。かと言ってFiiO「R9」はさすがに背が高すぎてモニターと干渉する。すべての条件を満たすのは「A70 Pro」である。あとはブラックかシルバーか。ここで急浮上したのがS.M.S.L「SH-X」である。これが謎のモデルでWebサイトの製品一覧を見ても出ていない。「SH-9」までだ。そのコンセプトは「H300」に似ていて、片chで40個のオペアンプを使いLRで合計80個のアンプを並列駆動する。ボリュームは抵抗切替型を採用している。条件は全て満たしているが、幅25cmもある。奥行きは19cmと無理すればデスクトップに置けそうなので、今回はTOPPINGでなくS.M.S.Lの製品を選択した。
マルチコントローラー兼ボリュームダイヤルの隣に6.3mm標準プラグ、4.4mmバランス端子、XLR4Pinバランス端子が並ぶ。3.5mmはない
背面にはバランスとアンバランスの入出力端子とアースの切り替え、ファームウェアのアップデート用USB-C端子と電源スイッチ、ACインレットがある
高音質を追求する中華ブランドS.M.S.L
S.M.S.Lは2009年に深圳に設立されたDACとヘッドホンアンプを中心としたオーディオブランドで、現在は広東省仏山市の順徳区に工場がある。S.M.S.LはShuangMuSanLinという地名から取られているようだ。2018年にES9038PROをデュアルに使ったフラッグシップモデル「DAC D1」で注目を集めた。2019年にはMQA対応の「DAC M500」を発売した。2021年にオフィスを移転、2023年に新たなフラッグシップモデル「VMV D2R」と「VMV P2」を製品化している。
S.M.S.L「SH-X」はリモコンからワンタッチでヘッドホンアンプとプリアンプの切り替えができ、音量それぞれで記憶される。入力とゲインも保存されている。これは便利。さらにメニューからデイスプレイの明るさと点灯時間も設定できる。上級機に比較するとリモコンが安いっぽいが実用上の問題はない。機能的には欲しかったものが全て搭載されており、サイズはギリギリだが何とかデスクトップに収まった。
付属のリモコンは単4電池2本で駆動、他機種と共用のデザインだった
ヘッドホンアンプモードで使用中。バランス接続でゲインはLOW
プリアンプとして使用中。バランス接続でゲインはLOW、ボリュームは前回設定した値に自動的に切り替わる
コントローラーを押すとセッティングメニューが表示される。ここで細かな設定が変更できる。ただし、「戻る」はリモコンからしかできない
表示の明るさは、細かく調整可能。表示時間も変更できて日本的な気配りが感じられる
プリアンプ機能が期待以上、ヘッドホンアンプとしても優秀
それでは肝心の音はどうなのか、beyerdynamic「DT900 PRO X」で聴いてみた。PRO Xシリーズは新開発のSTELLA.45ドライバーを搭載した次世代モニターヘッドホンで、900はオープンエアを意味する。予想していたより柔らかい音でボーカルは艶があって滑らかだ。以前、聴いたS.M.S.LのDACの音は、粒立ちが良く、解像度重視で、どちらかと言えばクールで無機質だった。DT900PRO Xもモニター用なので音にクセはないのだが、SH-Xに接続するとちょっとウォームな音色になる。6.3mmの標準プラグを使いアンバランス接続で聴いたが解像度に不満はない。
バランス接続を試すためにaudioquest「NIGHTHAWK CARBON」とORBのXLR4Pinと4.4mmバランスケーブルを使って聴いた。さらに情報量が増え空間が立体的になった。ano「猫吐極楽音頭」で何度も繰り返される「にゃんにゃんおぇ」のフレーズが表情を変えて広いステージから放たれたように聴こえた。J-POPは音数が少ないと単調でしょぼい音に聞こえるが「SH-X」を使えば音のシャワーを全身に浴びるように多彩な音が再生される。
片chで40個、左右で80個のオペアンプを使って音を増幅する方式。音量調整はギャングエラーが発生しない抵抗切替型を採用