使うことで塩味や旨みが増して感じられるという、夢のようなスプーンが発売された。その名は「エレキソルト スプーン」。手掛けたのは、飲料や食品をはじめ、医薬品、サプリメントなど、〝体と心の健幸〟に関する商品を開発・製造・販売する「キリンホールディングス」だ。
5月某日、発売に合わせて開かれた体験会へ。ひと足お先にチェックした仕組みと実力を、嘘偽りなく正直にレポートしようと思う。
ラーメンに味噌汁……しょっぱい日本食が招く!?「塩分摂りすぎ」の課題
まず「エレキソルト スプーン」が開発された背景の一つに、「塩分の摂りすぎ」という日本の社会が抱える課題にある。
厚生労働省が行なった令和元年国民健康・栄養調査によると、日本人の塩分摂取量はWHOが推奨する1日5g未満をゆうに超える10.1g。自慢じゃないが、世界でもトップレベルの数値だ。味噌汁やラーメン、牛丼など、しょっぱいメニューが好きだからだろうか……。
厚生労働省のHPによると、日本人の死亡要因のトップは「高血圧」だった。
塩分の摂りすぎは、顔や体がむくむだけではない。高血圧の発症・重症化リスクも高まる。厚生労働省の調べでは、30~40代にかけて、高血圧有病者の割合は大幅にアップ。70代の7割は高血圧というバクダンを抱えているという。
このような状況からも、日本の減塩・無塩食品市場は、2015年から2020年にかけての5年間で約26%成長。一方で、減塩食を行なっている、または行う意思のある人のうち、約63%が減塩食に不満を持っていた。さらにそのうち8割ほどの人は「味がもの足りない」と、おいしさに不満を抱えていたともいう。
そこで立ち上がったのが、〝体と心の健幸〟を守りたいと考える「キリンホールディングス」というわけ。開発の事業責任者・佐藤 愛さんらは、明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科・宮下芳明教授のもつ「電気味覚」技術に注目。2019年から、減塩食をおいしく食べられるカトラリーの共同開発をスタートした。
「電気味覚」技術を応用したスプーンとは?
「エレキソルト スプーン」の実力を余すことなくお伝えするためにも、知っておいてほしい技術がある。それが「電気味覚」だ。
これは18世紀ごろから知られている電気刺激による味覚の変化で、通電する電流の種類・強度・時間などの条件が異なると、味覚変化の効果が異なるという。今回は、その制御システムを新たに開発。薄味の減塩食における「味わい」を増強する電流波形を独自開発したのだ。
2019年から発売に至るまでの約5年間で、さまざまなプロトタイプが開発された。
開発を進める中で、お椀型、箸型などさまざまな形状が試されたが、中でも効果の発現をしっかり確認できることからスプーンを採用。毎日の食事で使ってほしいからこそ、持ちやすさや扱いやすさなどの使い勝手も考慮したという。
■微弱な電流により「味わい」がアップする
通常、口に含んだ食べ物の塩味(ナトリウムイオン)は、口内ではバラバラの状態。それが微弱な電流に引き寄せられ、集まるのだ。
めでたく発売された「エレキソルト スプーン」の仕組みを図にすると、こんなふう。
食べ物は口に入れた時、塩味のもととなるイオンが口中で分散している。だから、薄味の場合「物足りない」と感じるのだ。しかし「エレキソルト スプーン」を使うことで、微弱な電流でイオンの動きをコントロール。舌の上にイオンを集め、口内の塩分量は変わらないけれど、塩味や旨みなどの「味わい」を増強するという。
独自の電流波形の技術では、なんと減塩食の塩味を約1.5倍に増強させるという!楽しみではないか~!
と……盛り上がったところで、残念なお知らせ。「エレキソルト スプーン」自体は食品アレルギーがあっても使用できるが、今回の体験会では試食する料理の都合上、甲殻類とチーズにアレルギーをもつ筆者は、泣く泣く脱落。編集部・寺田に試食係をバトンタッチした。
体験会スタート!持ち心地は「軽くて握りやすい」
前から見た様子。スプーン先端部分のシルバーのところが電極で、微弱な電流が流れる。
一人一本配られた「エレキソルト スプーン」。電池式の本体は、重量約60g(電池含まず)と、かなり軽量にできている。
電動歯ブラシのような柄を握ってみると、思った以上に軽くて握りやすい。寺田も「ふつうのスプーンより太いから握りにくいかと思いきや、そんなことないね」と同意見だ。
この握る時に、ちょっとしたコツがある。柄の裏側にあるシルバーの部分に、指がしっかりと触れていること。これにより微弱な電流が手元からも伝わるのだ。