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「貧すれば鈍する」という言葉を見ただけでは、よく意味がわからない方も多いのではないでしょうか。貧しい生活になると支払いなどに追われ、判断が鈍るなど精神の働きが悪くなるという意味です。
本記事では、「貧すれば鈍する」の意味や由来、例文などをご紹介します。
「貧すれば鈍する」とは?
■意味
「貧(ひん)すれば鈍(どん)する」とは、貧しくなると、生活に追われて精神の働きまで鈍くなるという意味です。
貧乏な状態になると、人は心の余裕を失うもの。貧しい状態は、心まで貧しくし、悪循環に陥ることを表現する言葉といえます。
参考:デジタル大辞泉
■言葉の由来
「貧すれば鈍する」は、生活が貧しくなると、毎月の支払いに追われるために生きていくことで精一杯になり、心に余裕がなくなることを表す言葉です。
明確な語源はありませんが、中国の故事成語が由来とする説もあります。「論語(衛霊公)」に出てくる「小人窮すれば斯に濫す(しょうじんきゅうすればここにらんす)」という孔子の言葉が、「貧すれば鈍する」に通じるとされています。
「徳のない人は行き詰まると善悪の見境がなくなり、どんな悪いことでもやってしまう」という意味です。
■「貧する」と「窮する」の違い
由来の一節となっている故事成語は、「貧する」ではなく「窮する」としています。窮するとは、「行き詰まってどうにもならなくなる」「金や物が不足して困る」という意味です。
「貧乏になる」という意味の「貧する」とは貧しいという点で似ていますが、「窮する」には困るというニュアンスがあります。
「窮する」に関連して、「窮すれば通ず」という言葉もあります。中国の古典である、「易経(えききょう)」にある一節です。
行き詰まって絶体絶命の窮地に追いこまれると、かえって思いがけない活路が開けてくるという意味です。
「貧すれば鈍する」の使い方と例文
「貧すれば鈍する」の使い方について、例文を通して理解を深めましょう。
【例文】
・貧すれば鈍するとはよくいったもので、失業してからなかなか仕事が見つからず、生活に余裕がなくなってネガティブな思考になっている
・収入が減って生活が苦しくなり、イライラして家族に八つ当たりをしてしまう。貧すれば鈍することを地でいくような気分だ
・彼は会社が倒産してから金策に追われている。貧すれば鈍するで、鷹揚だった性格もすっかり変わってしまった
仕事がなくなり、収入が減ってしまった状態を表す際に頻回に使われる言葉です。そこで、心まですっかり荒んでしまった様子が伝わってくるでしょう。
「貧すれば鈍する」の類義語
「貧すれば鈍する」と、通じる意味合いのことわざもあります。一緒に覚えておくと、語彙力が向上するでしょう。
ここでは、「貧すれば鈍する」の類義語を3つご紹介します。
■衣食足りて礼節を知る
「衣食足りて礼節を知る(いしょくたりてれいせつをしる)」とは、着るものや食べるものに不自由しない生活が送れるようになって、初めて礼儀・節度を重んじることができるという意味のことわざです。
一見、「貧すれば鈍する」と対義語になると思うかもしれませんが、裏を返せば「生活に困っているうちは礼節を気にしていられない」という意味で、「貧すれば鈍する」に通じる言葉です。類義語となるため、間違わないようにしましょう。
【例文】
・彼は若いころ、マナーにかける振る舞いをしていたが、真面目に働くようになって生活に余裕が出てからは人が変わったように礼儀正しくなった。衣食足りて礼節を知るとはこのことだ
■知恵の鏡も曇る
「知恵の鏡も曇る(ちえのかがみもくもる)」とは、物事が思わしくない方向にいくと、正常な判断がつかなくなるという意味です。
「知恵の鏡」とは、知恵が優れて明らかなことを鏡に例えています。「運が尽きれば知恵の鏡も曇る」という使い方をします。「運がなくなる」を「貧しくなる」に置き換えれば、「貧すれば鈍する」と同じような意味といえるでしょう。
【例文】
・彼はこのところずっと不運に見舞われており、知恵の鏡も曇るのか、先日は詐欺に引っかかってしまった
■恒産なきものは恒心なし
「恒産なきものは恒心なし(こうさんなきものはこうしんなし)」とは、安定した財産や職業がなければ、正しい道徳心を持ち続けることはできないという意味です。中国の故事が由来のことわざです。
「恒産」とは一定の資産や安定した職業という意味で、これらがあってはじめて高潔な精神を持てることを指しています。「貧すれば鈍する」と、通じる言葉といえるでしょう。
【例文】
・彼は仕事が長続きせず転職を繰り返しており、最近は言動も乱暴になってきた。まさしく恒産なきものは恒心なしの状態だ