2003年の健康増進法施行から20年が経過した現在、わが国の健康づくり政策が抱える大きな課題の一つに「健康無関心層」へのアプローチがある。自己の生活習慣を改善する意思を持たない「健康無関心層」の行動変容は重要かつ難題の一つだが、その対策を考えるうえでも、まずは国民の健康への関心について詳細に実態を把握する必要がある。
そんな中、笹川スポーツ財団はこのほど、全国18歳以上の男女(性・年代均等割付)2,520名を対象とし、「健康関心度とスポーツライフに関する調査」を実施し、その結果を発表した。
1.「低関心」群の割合は5.4%で少数派
2019 年「国民健康・栄養調査」によれば、食習慣・運動習慣について改善の意思がない人は、20歳以上の男女の3~4割に上る。一方、本調査では、全12項目で構成される健康関心度尺度を用いて、その合計
得点(12-48点)を3区分してみると中関心群(25-36点)が最も多く、低関心群(12-24点)に比べると高関心群(37-48点)のほうが多かった(図1)。
中・高関心群を合わせると全体の9割を超えることから、健康関心度尺度を用いた本調査の結果によれば、健康への関心が低い人々は少数派とみられる。
厚生労働省では食習慣や運動習慣の改善意思、すなわち行動レベルの意欲を基準として関心度を測定しているため単純に比較はできないが、政策やメディアによる健康リスクへの意識喚起や健康関連商品の増加、また新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあいまって、近年では意識レベルでの健康への関心度は高まっていると推察できる。
2. 職業別では「専業主婦(夫)」が最も高い
健康関心度尺度の合計得点(12-48点)を用いて、職業との関連を分析した。このうち健康関心度の平均値が最も高かったのは「専業主婦(夫)」33.88、学生を除く勤労者の中では「正社員」が31.67と最も低
かった(図2)。
3. 運動実施群と運動非実施群で健康の価値観に差はない
健康関心度尺度は『意識』『意欲』『価値観』の3因子で構成されている。そこで、運動実施状況によって因子得点(各4-16点)の差がみられるかを検証した。運動実施状況は、5段階の行動変容ステージで測定し、それぞれ「無関心期」と「関心期」を合わせて『非実施群』、「準備期」・「実行期」・「継続期」を合わせて『実施群』とした。その結果、健康への意識得点および意欲得点は、ともに運動実施群よりも運動非実施群のほうが低かった。
一方で価値観得点は、運動実施群と非実施群の間で有意な差はみられなかった。したがって、運動を行っている人たちは行っていない人たちに比べて健康への『意識』および『意欲』は高かったが、『価値観』には違いがみられなかった(図3)。
図3 運動実施の有無による健康関心度得点(因子別)の平均値の差
健康無関心層へのアプローチに向けた可能性
健康関心と健康行動を軸とした4象限で整理してみると、健康行動が少ない健康無関心層の中には、健康関心の高さとは裏腹に“(健康のために)運動したくてもできない”などといったジレンマを抱えた人々も一定数存在する可能性がある(図4)。
とくに低所得層や子育て世帯では日々の生活を送ることに追われ、経済的・時間的ゆとりの少なさから思いどおりの健康行動をとれない、といった実情があるのではないかと推察される。
こうした人々を無関心層として一括りにするのではなく、“潜在的関心層”としてとらえて効果的なアプローチを探ることが重要である。
具体的な対策に向けてはさらなる分析を要するが、継続的に運動できる時間と場所の確保、そして実施開始のきっかけとなる機会の提供がとくに必要である。潜在的関心層の場合、健康行動に結びつく条件が揃えば自発的に行動変容が起こる可能性もあるため、促進を高める手段としてのプログラムをより優先的に検討・策定する価値がある。
<調査概要>
【調査名】健康関心度とスポーツライフに関する調査研究
【調査方法】WEBモニター調査
【調査対象】全国18歳以上の男女(性・年代均等割付)
【有効回答数】2,520
【調査項目】研究目的および仮説に基づき、全20問を設定。
就業分類/運動・スポーツ実施状況/運動・スポーツ実施時間/運動・スポーツ実施種目/運動不足感
/睡眠の質の自己評価/主観的健康観/健康関心度尺度/健康への全般的関心/ など
【調査期間】2023年8月3日(木)~7日(月)
【研究担当者】公益財団法人 笹川スポーツ財団 シニア政策オフィサー 水野 陽介
出典元:公益財団法人 笹川スポーツ財団
構成/こじへい