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スーパーコンピュータ「富岳」がHPCGランキングで世界1位を9期連続で獲得

2024.05.24

理化学研究所(理研)と富士通の共同開発により、2021年3月より共用を開始したスーパーコンピュータ「富岳」(注1)が、世界のスーパーコンピュータの性能ランキングのうち、産業利用などの実際のアプリケーションでよく用いられる共役勾配法(注2)の処理速度の国際的なランキング「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」において、9期連続の世界第1位を獲得した。

Society 5.0実現のためのHPCインフラとして世界トップ性能を実証

「TOP500」では「Frontier」(米国)が第1位となり「富岳」は第4位だった。また人工知能(AI)の深層学習で主に用いられる単精度や、半精度演算処理に関する性能ベンチマーク「HPL-MxP」(旧名称「HPL-AI」)においては「Aurora」(米国)が第1位となり、「富岳」は第4位だった。

これらのランキングは、現在ドイツ ハンブルクのコングレス・センター・ハンブルクおよびオンラインで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「ISC High Performance 2024」において、5月13日付(日本時間5月13日)で発表された。

「HPCG」における9期連続の第1位獲得および「TOP500」の第4位と「HPL-MxP」の第4位の性能は、引き続き「富岳」の世界最高水準の総合的な性能を示すものであり、新たな価値を生み出す超スマート社会の実現を目指すSociety 5.0(注3)において、シミュレーションによる社会的課題の解決やAI開発および情報の流通・処理に関する技術開発を加速するためのHPCインフラの役割を「富岳」が十分に発揮できることを実証している。

スーパーコンピュータ「富岳」

「富岳」の測定結果

(1)HPCG

「HPCG」の測定には「富岳」の432筐体(158,976ノード(注4)を用いて、16.00PFLOPS(ペタフロップス)という高いベンチマークのスコアを達成し、今回「富岳」は9期連続の世界第1位を獲得した。

この結果は、「富岳」が産業利用などにおいて実際のアプリケーションを効率よく処理し、高い性能を発揮することを証明している。

なお、2024年5月時点の「HPCG」のランキング第2位は米国の「Frontier」で、測定結果は14.05PFLOPS。すなわち、今回「富岳」は第2位に約1.1倍の性能差をつけたことになる。

(2)TOP500

「TOP500」リストに登録した「富岳」のシステムは、432筐体(158,976ノード)の構成で、ランキングの指標となるLINPACK性能は442.01PFLOPS(ペタフロップス)、実行効率は82.3%で世界第4位だった。

なお、2024年5月時点の「TOP500」リストのランキング世界第1位は米国の「Frontier」で、測定結果は1,206PFLOPSとなっている。

(3)HPL-MxP

「HPL-MxP」(旧名称「HPL-AI」)は、倍精度演算器の能力を測定する「TOP500」や「HPCG」などと異なり、AIの計算などで活用されている単精度や半精度演算器などの能力も加味した計算性能を評価する指標として、2019年11月に制定されたベンチマークだ。

この測定には「富岳」の432筐体(158,976ノード)を用い、2.000EFLOPS(エクサフロップス)のスコアを記録し世界第4位にランクされた。

2024年5月時点の「HPL-MxP」のランキング第1位は米国の「Aurora」で、10.6EFLOPSを記録している。

2. スーパーコンピュータのランキングについて

(1)HPCG

「TOP500」は、密な係数行列から構成される連立一次方程式を解く重要な性能指標であり、演算能力を主に評価するベンチマークとして長年親しまれてきた。

しかし、プロジェクトが発足した1993年から20年以上が経過し、近年、実際のアプリケーションで求められる性能要件との乖離やベンチマークテストにかかる時間の長時間化が指摘されている。

そこで、ジャック・ドンガラ博士らにより、産業利用などの実際のアプリケーションでよく使われる、疎な係数行列から構成される連立一次方程式を解く計算手法である共役勾配法を用いた新たなベンチマーク・プログラム「HPCG」が提案された。

2014年6月のISC14で世界の主要なスーパーコンピュータ15システムでの測定結果を経て、同年11月に米国ニューオーリンズで開催されたHPCに関する国際会議SC14から正式なランキングとして発表された。

(2)TOP500

「TOP500」リストは、LINPACKの実行性能を指標として世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのランキングを年2回発表している。

LINPACKは、米国のテネシー大学のジャック・ドンガラ博士によって開発された行列計算による連立一次方程式の解法プログラムであり、「TOP500」リストはこのプログラムを処理する際の実行性能を指標としたランキング。多くの科学技術計算や産業アプリケーションで使用される倍精度浮動小数点数の演算能力を測ることで、コンピュータの計算速度ランキングを決定する。

なお、本ベンチマークで高いスコアを出すためには、大規模ベンチマークを長時間測定する必要がある。そのため、LINPACKによる高いスコアは、計算能力と信頼性を総合的に示していると一般的に言われている。

(3)HPL-MxP

「TOP500」と「HPCG」では、連立一次方程式を解く計算性能でランクをつけてきた。どちらも科学技術計算や産業利用の中で多く用いられてきた倍精度演算(10進法で16桁の浮動小数点数)のみで計算することがルールに定められていた。

近年、GPUや人工知能(AI)向けの専用チップで低精度演算(10進法で5桁、もしくは10桁)の演算器を搭載し、高性能化した計算機が多数現れている。

これらの高性能演算能力が「TOP500」に反映されないとの実情があり、ジャック・ドンガラ博士を中心にLINPACKベンチマークを改良し低精度演算で解くことを認めた新しいベンチマーク「HPL-AI」(現在「HPL-MxP」)が2019年11月に提唱された。

「HPL-MxP」はLINPACKが連立一次方程式をLU分解(注5)を用いて解く際に低精度計算で実施することを認めている。しかしながら、倍精度計算よりも計算精度が劣ってしまうため、引き続き反復改良(注6)と呼ばれる技術で倍精度計算と同等の精度にすることを求めている。

つまり、二段階の計算過程で構成されたベンチマークと言える。

注1 :スーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」
スーパーコンピュータ「京」の後継機。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年3月に共用が開始された。
現在「富岳」は日本が目指すSociety 5.0を実現するために不可欠なHPCインフラとして活用されている。
注2: 共役勾配法
物理現象をコンピュータでシミュレーションする場合、大規模な連立一次方程式として解くことが多い。連立一次方程式を解く方法として、解を直接求める直接法と、反復計算を行うことで正しい解に収束させていく反復法の二つがある。共役勾配法は、後者にあたる反復法の一つであり、前処理を組み合わせることにより、早く正しい解に収束させることができる。コンピュータシミュレーションの世界ではよく使われている。
注3: Society 5.0
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。IoT(Internet of Things)、ロボット、AI(人工知能)、ビッグデータといった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会の実現を目指すこととしている。
注4 :ノード
スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステムが動作できる最小の計算資源の単位。「富岳」の場合は、一つのCPU(中央演算装置)および32GiBのメモリから構成される。
注5: LU分解
連立一次方程式を解く方法の一つ。解法の途中で行列を下三角行列(Lower-triangular matrix)と上三角行列(Upper-triangular matrix)の積の形に分解するため、LU分解法と呼ぶ。
注6 :反復改良
LU分解などの方法で連立一次方程式を解いた近似解には真の解との誤差が含まれてしまう。その誤差を用いた連立一次方程式を再度解いて、近似解を修正することでより真の解に近い答えを得る方法。

関連情報
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2024/05/13-1.html

構成/清水眞希

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